最終話 迎えに来たのは彼女の方ですよ?
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場面。彼女と契約を交わした、七月最終週エオーの曜日から続く日常。
しかし、何故かかなり長い間、彼女の声を聞いて居なかったような気もするのですが……。
「おはようさん」
上半身のみを起こしながら、その畳の隅の方にまるで定規を引いたような精確な姿勢で正座をした少女に朝の挨拶を返す俺。
何故、彼女……湖の乙女が眠って居る俺の手を握って居たのか意味不明ですが、それでも、彼女が何の意味もなくそんな事を行う訳はないと思うので、今朝この手を繋いだ状態で俺が目覚めると言う事が必要だった、と言う事なのでしょう。
いや、そう言えば、昨夜の眠りに就く前に妙な紙切れが舞い込んで来て居ましたか。
何処かに行って来てくれ、……とか言う妙な依頼文が書き込まれた紙切れが。
俺は、俺の事を真っ直ぐに見つめる少女の姿形をした神霊を見つめる。
彼女は普段通り。殆んど感情を表す事のない瞳に俺を映すのみ。その頬を動かす事もなければ、無垢な新雪の肌を朱に染める事もない。
ただ、彼女から僅かに漂う雰囲気は安堵。これは俺が眠って居る間に、何か厄介事が起きたと言う事なのでしょう。
そして、その結果、俺は彼女の手を握った状態で目覚めた。
まして、今の彼女は、ハルファスの用意したパジャマではなく彼女の正装。襟の大きな蒼色のセーラー服姿。この姿で眠る事はないので、この姿で解決しなければならない何事かが起きたと言う事は、想像に難く有りません。
そもそも、彼女が眠るのはタバサと同じ寝台の上。俺の傍らでは有りませんから。
それならば、
「湖の乙女、ありがとうな」
正直に言うと何が起きたのか判りませんが、それでも、俺が目覚める事で安堵するような事が起きたのは確実。ならば、最初に感謝の言葉を口にするべきでしょう。
そして、もし必要ならば、俺が眠って居る間に何が起きたのか彼女に聞けば良いだけ。
起き抜け。更に、普通に考えたのならば意味不明の言葉に対しても動じる事もなく、静かに首肯いてくれる湖の乙女。
何もかもが普段通り。普段通りでないのはただひとつ。
「そうしたら、そろそろ起きて、朝飯の準備に取り掛かろうかなタバサ」
本当は既に目覚めて居て、しかし、少し自己主張をし難い状況で有ったが為に、寝た振りをし続けて居る少女に対してそう声を掛ける俺。
どうにも鋭敏な感覚と言う物は、こう言う時には余計な気を遣わせて仕舞う。俺と湖の乙女は別にイチャついて居た訳でもなければ、後ろ暗い事を行って居た訳でもない。ただ、普通に話していただけなのですから。
それにしても……。
ゆっくりと上半身だけを起こし、ナイトキャップを被った蒼い少女を見つめながらこう思ったのだった。
すべて世は
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