マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
領分
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その言葉に雪螺の眉がピクリと動き、彼女は顔を上げた。
「…………君には隠し事が出来ないね。大した事じゃない、自分のしてきた事を振り返っているのさ」
本に栞を挟んで閉じるとゆっくりと立ち上がる。そのまま窓際まで歩いていくと何かを見下ろしながら言った。
「私はこの国で《五賢人》なんて呼ばれているが、君達は日々のニュースや何かでそんなワードを聞いた事があるかね?」
「……いえ」
「そう、《五賢人》というワードを着けて私達を指すのはアンダーグラウンドの住人のみ。表向き、私は《医者》で笠原は《工学技術者》、他に君達が知っている茅場は《量子物理学者》で《ゲームデザイナー》だろう?これらの括りで私達は相当の評価を得ている。所謂『光』の部分さ。皮肉にもそれが私達各々が裏で研究している『闇』の部分を黙認してもらっている理由でもある」
湿度は決して高くないが、息が苦しくなってくる。いつしか明日奈は通路で響いていた剣撃の音すら遠ざかり、雪螺の声だけが聞こえていた。
「茅場はもう1つの世界を、笠原は核兵器に代わる新たな抑止力兵器を、そして私はそんな兵器をも凌駕する人間を作ろうとした。茅場はともかく、私と笠原の研究は表に出て良いものでは無いからね」
そこまで言い終えると雪螺は振り返り、3人を見ながら言った。
「偶然、君達は私が何を作ったのかを直に見ることが出来る。興味があるなら屋上から見てみるといい」
その声の余韻が消えた時、彼女の後ろで乾いた破裂音が響いた。
車両の一切無い広々とした入り口前の駐車場。そのほぼ中央に悠然と佇むパーカー姿の少年が居た。歳の頃は10代後半。風になびく少し長めの黒髪と、どこかぽやっとした特徴の顔立ちが印象的だった。
少年が目を開ける。途端、強烈な殺気が体から放たれた。
「来たか……」
その視線の先には妙齢の女性。
体にフィットするタイプの防弾スーツに帷子を着込み、紫色の布に桜の模様を散らした小袖を羽織っている。最早目的を誤魔化すつもりは無いのか、2メートルはあろうかという長槍を小脇に抱えている。
しかも―――
(クソ……本気かよ)
本来石突がある刃と反対の部分にはもう1つ刃が付いている。彼がゲーム内で使う《両刀》と酷似しているが、厳密に言うなればあれは《双剣》の一種だ。
一対の刃を持つ長槍、銘は……
(山東の宝槍《飛廉》……!!)
数年ぶりに再開した2人は10メートルという微妙な距離を開けて相対した。そして2人は同時に放射していた殺意を飲み込んだ。
「……大きくなったわね。螢」
「……ああ
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