マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
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のは無いな、四位殿。貴女の実力は既に知っている」
(……ふん。分かってるわよ、勝てない事ぐらい)
沙良は安い挑発を軽く受け流し、刀を構え直した。5人の武人は仮面の下から失笑の気配を漏らすと、殺気を放ってきた。
「ふ、我等は名乗るような名を持たぬのでな。無礼を赦して頂こうか―――参る!」
「そうですか。―――では、私もあまり好きでは無いのですが―――《水城流》免許皆伝。次期当主候補第四位、水城沙良。受けて立ちましょう」
「やあ、来たね」
廊下の緊張感とは裏腹の空気が2人を迎えた。
「……こんにちは、水城先生」
「おや?意外と落ち着いている。嬉しい誤算だ…………とは言え時間が無い。手伝ってくれ」
言うなり雪螺は脇に置いてあった肩掛け鞄を持つと木綿季の点滴や各種器具を取り外した。
「あの……俺達は何をすれば……?」
「木綿季君をおぶってくれ。私は非力でね」
……3年以上寝たきりの木綿季をおぶれないって一体……
「明日奈、出来るよな?」
「え?う、うん」
「ほぉ?格好いいじゃないか桐ヶ谷君。盾になってくれると?」
その時初めて和人の意図を察した明日奈は慌てて何か言おうとするが、和人に制される。
「……そう、沙良と約束したんで」
「……そうか。強いな君は。だが『気持ちだけで十分報われた』よ。私はここに残る。2人で逃げなさい」
「!……どうして!?」
不敵に微笑んだまま雪螺は木綿季を軽々と抱き上げると明日奈の肩に捕まらせた。
「雪螺、先生?」
木綿季が掠れた声を出し、長身の女性を見上げる。
「―――全ては桐ヶ谷君が知っているはずだ。安全な所でゆっくりと聞きなさい。さあ行って。屋上に迎えが来ている」
そう言うと雪螺は和人に肩掛け鞄を託し、一歩下がって椅子に腰掛けると、ハードカバーの本を広げた。
「どうして……」
明日奈は納得出来なかった。螢も沙良もこの人も、どうしてそんなに生きる道を諦めるのか。死して尚貫きたい意志ならともかく、まるでそうなることは決まっていたと言わんばかりのこの態度は何なのだろうか。
「あなたが死んだら……木綿季はどうなるんですか!?まだ、どうなるか分からないんでしょう!?」
「その時の事は考えうる限り考えて対処を記してある。その鞄の中身だ。大切にしなさい」
ページをめくり、ただ黙々と先を読み進める雪螺。逃げようとはせず、かと言って2人と木綿季を急かそうとはしない。
「……雪螺先生?」
沈黙を破ったのは木綿季の弱々しい声だった。
「何かな、木綿季君」
「……何で、そんなに哀しそうな顔してるの?」
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