第九話 〜アスナが地球へ行くお話 前編【暁 Ver】
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いて、気になるのはこの娘だ。
誰も気づいていない。気づいているのはあたしとスバルぐらいだろう。いつも通りのぼんやり顔だから、わかり難いけど──── アスナのテンションがうなぎ登りだった。あたしは何も起こりませんようにと、天に祈ったが大抵の場合。神とやらは、あたしの願いを聞いてくれた試しはなかった。
アスナが、来ない。ヘリポートへ集合していたあたし達だったが、アスナが来ないのだ。昨日、八神部隊長から話を聞いた時の嫌な予感が当たったのか、それとも始まりに過ぎないのか。少し心配になってきたので、探しに行こうと思った矢先に目当ての人物が子供のような足音を響かせながら、やってきた。……まるで登山にでも行くような大荷物を背負ってだ。
「アスナ、その荷物はどうしたの?」
背中のバックパックだけではなく、両手には抱えるようにして大きなバスケットを持っている。
アスナはそう問いかけたあたしを見てから六課の面々を見渡して、もう一度あたしを不安そうな瞳で見つめた。
「……だめ、でしたか?」
さぁ、どうする。ここでダメなんて言ったら、しょんぼりして部屋へ戻っていく姿が容易に想像できる。だけど、流石に荷物が多すぎだ。任務で使う機器以外の私物は最小限。昨日のミーティングでそう言った八神部隊長の注意にも理由があるのだから。
あたしが荷物を減らすように言おうとすると、視界の隅を輝くような金糸が通り過ぎた。彼女は少しだけ躊躇いがちに前に進み出ると、ふわりと微笑みながらアスナへと話しかける。
「少しだけ荷物を減らそうか? たくさん荷物があると転送ポートの重量制限に引っかかって地球へ行けなくなるからね。バスケットはお弁当でしょ? これは大丈夫だよ。エリオもスバルもいっぱい食べるしね」
因みに転送ポートに重量制限などない。彼女……フェイトさんを初めとする六課の面々は、最近アスナの扱い方が上手くなってきた。いや、違うか。フェイトさんはただ、アスナの気持ちに水を差さないようにしたのかも知れない。アスナはフェイトさんの紅玉のような瞳を見つめながら、かくりと頷いた。
「はやて?」
「少し遅れるくらい平気や、かまへんよ」
「うん、ありがとう」
フェイトさんはその返答に満足したように頷くと、受け取ったバスケットをエリオに渡し、アスナの手を引きながら隊舎へと戻っていった。恐らく寮まで戻ると時間が掛かるので、隊舎にあるロッカーを利用するつもりなんだろう。周りを見渡してみると、皆一様に苦笑を浮かべている。だけど、その表情にも瞳にも。負の感情は見られなかった。
アスナが六課へ来たあの日。あまりにも簡潔すぎる自己紹介に、訓練校時代と変わっていないことを安堵して、それと同じくらい
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