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たちまち遊戯王
第1話 可愛くない子が旅をするまで
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乳をかけすぎて、スプーンを使うことも器を持ち上げることも出来ないのだ。
「やっははー!」
 その空間を破るかのように、玄関辺りから明るい声がした。
 埒路は居間の方に一瞬顔を向けると、牛乳をすする作業に戻った。務都弥は反応しない。
 ガチャ
「やっははー!」 
 務都弥の姉の鈴瞳(リンドウ)が明るく居間に現れた。
「おかえり」
「おかえり」
「……むぅ」
 2人が返すと、鈴瞳は不機嫌そうに口を尖らせた。そしてその顔のままスタスタとダイニングに歩み寄る。
「やっははーにはひっほみーだって前に言ったよね?」
「言ってたな」
 務都弥は鈴瞳の方を見ずに言った。
「そうだっけ?」
 埒路は首を傾げた。
「と、に、か、く、やっははーにはひっほみーです。国語辞典だけでは会話は出来ません。いいね?」
 鈴瞳は人差し指を1本立てた。
 務都弥は無視したが、埒路はコクンと頷いた。
「えーでは……」
 鈴瞳は居住まいを正した。
「やっははー!」
「ひっほみー」
「…」
 務都弥は無視して弁当箱を洗い場に持っていこうとしたが、ふと視界の端に鈴瞳が映ると、怪訝な表情をした。
「お前……それなんだ?」
 務都弥は鈴瞳の周囲を回っているものを指差した。
「ナンダーッ!フトッタッテイータイノカー!」
 鈴瞳は自分の腹をかばいながら辛そうに叫んだ。
「お前の胴回りは管理してねぇよ」
「じゃーなんなのさ?」
「お前の周りで、なんか回ってる」
「へ?」
 鈴瞳は自分の周囲を見回した。但し、回っているものと同じ右回りだ。 
「何?何があるの?」
「……逆回りしてみろ」
 務都弥は旅人算よろしく回っている鈴瞳を見かねて口を出した。
「逆?」
 鈴瞳は逆回転を行った。
「って何これ!?」
「知らなかったのか?」
 それは茶色で何かの欠片のような形をしていた。回転速度はゆっくりだ。
「てゆーからっ君、知ってたなら教えてよ!」
「分かった」
 埒路は頷いた。
「……で、何なのこれ?」
 鈴瞳は鬱陶しそうにそれを目で追った。
「もー何これ新手のストーカー?」
「知らん」
「……?」
 埒路は首を傾げると牛乳をすすった。
「酷い!らっ君は私のことより、そんなシリアルを選ぶのねっ!」
 鈴瞳はわざとらしくヒステリックに叫んだ。
「早く食べないとふやけるから」
 埒路は鈴瞳の方を見てそう言うと器にスプーンを入れた。
「……って何それ?緑くなってない?」
 鈴瞳は器を覗いた。器の中の牛乳は、毒々しい緑に染まってきている。
「『スピンクの山葵コーンフレーク』」
「山葵味!?」
 鈴瞳はすっとんきょうな声をあげた。
「おいしいの!?」
「……」
 埒路はスプーンを口に運んだ。
「……まずい」

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