1年目
冬
冬B*Part 2*〜氷のように温かな〜
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の時間に他人の家に押しかけていいはずがないだろう。大方、愛華をバンドに引き戻すための話をしに来たのだろう? お前、彼にはきちんと話していなかったのか?」
「いや、話したさ! でも、それでもあいつは諦めきれなかったらしくて……」
それを聞いた親父は、はぁ、と呆れたようにため息をつくと、机に置いたカップを手に取り、こちらに振り向いた。
「尼崎君には明日もう一度辞める理由をきちんと伝えなさい。それと、お前もそろそろいい年だ。そんな奇抜な服装はやめてもう少し落ち着きなさい」
話は以上だ、と締めくくると親父は再び机へと体を向けた。
何も言い返すことが出来ず、拳を握りしめながらも、あたしは軽くお辞儀をしてその部屋から出た。
あたしの目は自分の気付かないうちにまた自然と涙が浮かんでしまっていた。
部屋を出ると、そこには厚手のスカーフを肩にかけたお袋が心配そうな表情で立っていた。あたしはそんなお袋に今の顔を見せたくなったため、ふいっと顔を背けてしまう。だが、お袋はそんなことは気にも止めず、優しい声で話しかけてきた。
「愛華……。少しお母さんとも話さない……?」
あたしは少し戸惑ってしまったが、腕で涙を拭うと、その言葉に何も言わず頷きお袋と二人リビングへと足を向けた。
リビングに入ると既にテーブルの上にはカップが二つ並んでいた。そこからは紅茶の良い香りと温かそうな湯気が立ち上っている。きっと高尾さんが用意してくれたものだろう。しかし、今日は既に泊まり込み時用の自身の部屋に行ってしまったのか、高尾さんの姿は見当たらなかった。
高尾さんに感謝しながらも、あたしとお袋はカップの前に座った。
そして、お袋はそのカップに入った紅茶を両手で持ち、一口飲むと目を瞑ってゆっくりと口を開いた。
「実はね、お父さんも昔バンドをしてたのよ」
そんなこと一度も聞いたことのなかったあたしは目を見開きお袋を見つめた。
お袋はあたしのそんな様子を見て、少し笑みを浮かべるとカップへと目を落とし、思い出すかのように語り始めた。
「私が大学生の時……、お父さんに出会った頃ね、あの人すごく荒れてたのよ。ミュージシャンを目指すことをご両親にひどく反対されてね」
それを聞いて再びあたしは驚いた。
親父も今のあたしと同じ状況だったのか……。
だが、あたしはそこで一つ疑問が浮かんだ。
「それじゃなんで親父はあたしがバンドをやることに反対するんだ? 自分が両親に反対されていたならあたしの気持ちもわかるはずなのに……」
「それはね、愛華。あなたに幸せになってほしいからなのよ。こう言うとあの人は怒るかもしれないけど、あの人には才能がなかったの。音楽の才能がね」
お袋はそう言いながら苦笑いを浮かべ、あたし
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