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八条学園怪異譚
第四十五話 美術室その十三
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「私の様に髭をのばしている人は」
「やっぱりですか」
「そうなんですね」
「そうです、ただ髪の毛は男性は最近はのばしていないですね」
 殆どがそうだというのだ。
「今は」
「のばしてると邪魔になるからですか」
「だからですね」
「私もそうですし」
 見ればコキイネンも髪の毛はのばしてはいない、あくまで髭だけである。
「髪の毛までは」
「そうなんですか」
「今ではそうなんですね」
「ただ、女性はです」
 こちらはどうかというと。
「のばしていることが多いですね、今でも」
「例えばイスラムの戒律が厳しい国ではだ」
 また日下部が話してきた、海軍から海上自衛隊に勤務していただけにこうした他国の文化については詳しいらしい。
「女性が髪の毛を切ることに批判が多くだ」
「のばしてるんですね」
「それもヴェールの下で」
「ヴェールを脱ぐことも駄目だ」
 戒律の厳しい国では、というのだ。
「だからイラクはかなり西欧的であったのだ」
「サダム=フセインの時ですか?」
「あの時は」
「フセインは女性にヴェールを脱ぐことも髪を切ることも許していた」
 フセインの意外な一面であろうか、国家の近代化も推し進めていたのだ。
「そして就学や政治への参加もな」
「ただの独裁者じゃなかったんですね」
「そうした政治もしてたんですね」
「一概に悪とは言えない」
 これはどの人物、組織、民族でもそうだがフセインもまた然りというのだ。
「だからだ」
「フセインも悪人とは言い切れないんですか」
「凄い悪いことをしていたのに」
「フセインが悪かどうかもイスラムの摂理から考えることだ」
 彼が生きていたその文明の中でだというのだ。
「そこからな」
「私はフセイン大統領についてはよく知りません」
 コキイネンはその頃には実体をなくしているからだ、生身では知らないというのだ。
「見聞きしてはいましたが」
「幽霊になってからですか」
「お聞きにはなられても」
 だが実体の時には聞いてはいないというのだ、フセインについては。
 それでだ、コキイネンは二人にこう話すのだった。
「イスラエルにも攻撃はしていましたが」
「湾岸戦争の時に」
 日下部が言ってきた。
「そうでしたね」
「はい、ですが私はフセイン大統領は特に嫌いではありませんでした」
 そうだったというのだ、フセインについては。
「実はイスラム諸国はイスラエルを否定していません」
「そうですか」
「特にですか」
「そうです、ユダヤ教徒は経典の民なので」
 イスラムではユダヤ教とキリスト教についてはこう言って特別の存在とみなしているのだ、他の宗教ではあっても。
「むしろイスラムは他の宗教には寛容です」
「じゃあどうして戦争になるんですか?」

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