九話 「小さな一歩」
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ああ、うん。台無しだ。
「ちょっと出かけてくる」
白に向け俺は告げる。
夕飯を終えて部屋に戻ってからのこと。時間は既に遅く、窓から見える外は闇に閉ざされ人家の明かりがその中に仄かに浮かぶ。
動かしていた手を止める。いつも持っているのとは違うカバンを引っ張り出し中身を確認して立ち上がる。
「ああ、お前はいい」
一緒に立ち上がろうとした白を制する。
「ちょっと人と会ってくる。向こうには一人って言ってあるから、白はここで待ってろ。その間に一通りの作業をしといてくれ」
部屋には様々な乾燥した植物、キノコが置いてある。
数日前に採集し外に干していたものが乾燥したのでそれを取り入れたのだ。後は乾燥しパリパリになったそれらを砕き、ある程度の大きさにまですればいい。
「他の物と混ざらないよう砕いたものは種類毎、部位毎に分けておけ」
「分かりました。お気を付けて」
「ああ」
部屋の窓を開け、そこから外に出て地面に降りる。おっさんに見つかるのも厄介だ。
少し行ったところで陰に隠れる。
変化の術を使い姿を変える。何度となくなった青年の姿に変わった後、街へと向かう。
この街には東西南北へ走る大きな道がある。その四辻を中心に大小様々な道が街の中を走り店や家が立ち並ぶ作りになっている。
大きな道を北へ行けばいずれ街の外へ出て波止場につき、火の国へと向かえる。東も似たようなものでずっと歩き続ければ小さな街を経て水の国への、俺がかつて通ってきたルートに近い道に出る。南、西はまた別の街へ。無論、どれも先を進めばいずれ水が道を塞ぐ。
ここはそんな道の内の一つ。繁華街から少し離れた人気の少ない道。歩き続ければ街の外へ出、隣の町への街道へと続いている道の、一つ隣の通りだ。
それの途中、街が終わらない途中にある一件の店の前へ行く。
寂れた文字で“茶”と書かれた錦。前に白に髪飾りを買ってやった偏屈ジジイの店だ。
既に明かりは落とされている。木製の雨戸を開け閉ざされている戸を鍵で開ける。店の中に入り後ろ手に鍵を閉める。
「おお、来たか」
店の中にいる二人のうちの一人であるジジイ、葛西が初老を思わせる低い声で言う。
店の中は壁際に電気がついておりそこそこに明るい。その明かりが外にもれないよう戸とは別に雨戸はあるのだろう。
店の中は手前と奥半分で高さが違う。奥は段差があり畳敷きになっている。爺は畳の上に胡座をかいて座っている。
俺が中に入っていくと二人の内のもう一人、段に腰掛けている男がこちらを向く。
思ったよりも若い、猫を思わせるような細い目をした男だ。
「あんたが、真代はんどすか?」
(何で京都弁何だよおい)
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