第一物語・後半-日来独立編-
第五十六章 解放《1》
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眼前に急に現れた黒い手のようなもの。
驚きと恐怖から歯を食い縛るセーランは、黒い手から放たれる嫌な雰囲気のようなのを感じた。
恨みや憎しみ、妬みや憂いなど、負の感情を織り混ぜたような雰囲気。
感じのいいものとは到底言えないものだ。
避けようにも既に距離は短く、避けることなど無理だと感じる。だが、そんなことを思っているセーランは急に、何かに押されたように宙を上へ向かって飛んで行った。
思考が追い付かず、一体何が起こっているのか解らない。
宙に上げられたセーランが見たのは、地上にいる長髪の少女。
動けないと言っていた筈の草野芽・実之芽だ。
「なんでお前が」
雷撃によってセーランを跳ね飛ばし、黒い手から無理矢理回避させた。
手加減をしてくれたのだろう。雷撃による痛みは小さく、身体に大きな痛みはない。
問いに答えるように実之芽は言う。
「身体は脳から送られる微弱な電気で動いているのよ」
「そういうことかい」
「そういうこと。ついでだけれど、あの黒い手みたいなものは天魔の力を利用した一種の兵器よ。触れれば堕ちた神の悪行同等、身体に害を及ぼすわ」
「まだ幾らか来るな。頼めるか?」
「やって上げるわ」
後からもう一つ、もう二つとコンテナが落ちてくる。
どれもが地上に落ちた瞬間、一瞬にして黒い手がセーランの目の前に現れる。狙って地上からは実之芽による雷撃を当てることによってセーランの身体は不規則に動き、同時に目標を追尾するために旋回した黒い手を空から降った雷が焼く。
もう既に解放場との距離は百を切り、セーランの瞳には解放場の上に立つ一人の少女が目に映る。
青い長髪の、細く小柄な少女。
「委伊達・奏鳴――!」
少女の名を叫んだ。
次々と来る黒い手を雷撃と流魔操作によって避け、徐々に解放場との距離を縮める。
解放場から放たれる光が濃くなり、光のなかにいる奏鳴の姿を隠す。しかし、青く濃い光のなかから声が聞こえてきた。
「馬鹿者! 何故ここへ来た」
突き放す言葉。
胸に刺さるものを感じながら、セーランは言葉を返した。
「お前に会いたかったからさ」
数日ぶりに。
これまで長い三年間のことを考えれば、たった数日は短いものだったが、解放されることを知って待つに待ちきれなかった。
再び会える時を。
宙を行くなかでセーランは言葉を続けて。
「これからお前のところへ行く。だからよ、そこで話し合おうぜ」
「来るな! これでいいんだ! お願いだ、来ないでくれ」
セーランと奏鳴の間を割るように、黒い手がセーランに襲い掛かった。
苦し紛れに、必死ゆえに放つ言葉。
「馬鹿野郎が――――!」
叫ぶと同時に、光が激しく数回点滅した。
光が弾けるまで、もう間も無くということだ。
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