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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第36話 「イゼルローンへ」
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り返す通信。艦内の通信システムを一部専用として使用しているのだ。
 普段見ることの無い宰相閣下の姿に、司令部の士官達が目を丸くしていた。
 問題の多さ。
 改革の困難さ。
 目の当たりにした現実に、誰もが息を飲む。
 めったに宰相府から出てこない宰相閣下に対する不満も、これで一気に解消されただろう。
 外に出ている暇など無いのだ。

「笑えぬな」

 補佐官として付いてきたメックリンガーも、そう言ってため息を吐く。

「なぜ、改革が先送りになっていたのかが、分かる」
「こうなる事が分かっていたからだろう」
「正直なところ、わたしも遠慮したい気分だ」

 そう言うと二人で、顔を見合わせ乾いた笑いが漏れ出した。
 ときおり訪れる司令部の士官、それも特に下級士官達が、宰相閣下をすがるような目で見ていた。
 この困難さに諦めて、改革を断念しないでくれと願っているのかもしれん。戦場など知らなくてもいい。戦争は自分達が行うから……。
 そう思っているのがはっきり分かる。

「イゼルローンまでの短い航路。その間ぐらいは書類から逃げられると、思っていたんだがな〜。儚い夢だった……」

 宰相閣下が落ち込んでいる。
 儚い夢。
 実感の篭る言葉だった。

「なにを仰っています。まだまだこれからです」

 机を並べて書類を読んでいたリッテンハイム候が、宰相閣下に声を掛けた。
 門閥貴族の雄が、宰相閣下と机を並べて改革を練っている。
 その状況にみなが、驚きを隠せずにいた。
 本気なのだ。
 本気で帝国は改革を行っている。
 門閥貴族でさえも、改革を支持している。この二人の姿は、それを端的に物語っていた。

「コーヒーをお持ちしましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。砂糖はいらない。ブラックで」

 従卒が、おずおずと心配そうに声を掛けた。
 彼は従卒として付けられた幼年学校の生徒で、名をクラウス・ラヴェンデルというそうだ。ラインハルトと同い年らしいが。

「ブラックは……」
「苦味がおいしいんだ」

 ストレスが溜まると苦味をおいしく感じるそうだが、よほどお疲れのご様子。
 ふと漏らす言葉にも、考えれば意味を読み取れる。
 しかしあの少年は、宰相閣下に対して恐々と接していたものだ。その様子に理由を問いかけると、一言。ラインハルトが……。と言っていた。
 それで分かった。
 ラインハルトのように自分も、女装させられてしまうのではないか、と心配していたのだろう。

「宰相閣下にそのようなご趣味は無いぞ。あれはあくまで、ラインハルトをからかっているだけだ」
「ですよね。ラインハルトが散々文句を言っていたから、心配していましたが、ごく普通の方だと思います」
「無論そうだ。ごく普通のお
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