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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第36話 「イゼルローンへ」
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いぶん面白い記事だったそうだ。帝国にもこれぐらい書くやつがいれば良いんだが、とも言っていたそうだ」
「皇太子は自分の事を貶されても平気なんでしょうか?」
「どうだろうな。それぐらい気にしないほど、余裕があるのかもしれん」

 自分で言っていても、不思議だが余裕があるよな。あの皇太子。
 鷹揚な男なのか?
 それとも冷酷な男なのだろうか?
 鷹揚さも寛容さも擬態という事もある。皇帝になったとき、仮面をかなぐり捨てて、冷酷さを露にするかもしれない。
 昨夜見た映像を思い出した。
 皇太子を盗撮したものだ。ゆっくりとこちらに振り向く場面。
 母親の血だろう。短めの金髪が軽く揺れていた。琥珀色の瞳が鋭く睨みつける。
 怖い。
 そう思わせるものがあった。
 傲然とふてぶてしく。自分の強さを疑っていない。
 それは皇太子という立場から来るものなのか?
 それとも、本質的なものなのか……。

「おそらく本質的に強さを持っているのでしょう。だからこそ……」
「……改革を断行できる、か」

 あれぐらいの強さを持った政治家が同盟にいれば、とも思うが、そうなると同盟から第二のルドルフが生まれたかもしれない。
 ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。
 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム。
 もしこの二人が、同時期に存在していたならば、どうなっていただろうか?
 意気投合しただろうか、それとも反発しあっていただろうか?

「どうだと思う?」
「もしかするとルドルフの方が、負けていたかもしれませんね」
「どうして、そう思うんだ?」
「明るさです。あの皇太子、策略を巡らしていても、なぜか明るさを感じてしまう。ルドルフは雷鳴に例えられましたが、あの皇太子は太陽ですよ。イメージ的に、ね」
「雷鳴と太陽か……」
「この二人のどちらの下の方が生きやすいでしょうか?」
「間違いなく、皇太子の方だろうな」
「そう思われるだけでも、皇太子の方が有利でしょう」

 それで和平を考えていてくれれば、ありがたいんだがな。
 そう単純でもないか。

 ■総旗艦ヴィルヘルミナ ウルリッヒ・ケスラー■

 宰相閣下が宇宙艦隊総旗艦に乗り込んでおられる。
 普通、宰相閣下ともなれば、ご自分の船を持っていても不思議ではないのだが、宰相閣下はお持ちではない。

「そのうち専用の船を造るさ」

 そう仰られるが、何時になることやら……。
 あまり興味が無いらしい。
 それはそうと、宰相閣下はお忙しい。
 船旅の中にあっても、帝都から書類が送られてくる。その上、決裁を求められる。
 頭の痛いことだ。
 ヴィルヘルミナの会議室。その一角を陣取って、急遽作られた執務室内で決裁を行っている。
 次々と送られてくる通信。送
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