第二部 文化祭
Asuna's episode 出会い
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てるけど」
「……?キリト??」
「うん。桐ヶ谷和人って名前を省略した、超絶安易なニックネーム」
「変わってるね」
明日奈は頷き、意を決して言う。
「……じ、じゃあ、わたしもこれから、?キリト?って呼ぶね」
「お、おう」
━━キリト。
最初は天敵だと思っていた和人との距離を、こうも縮めたいと思っている。これは一体どういうことか。明日奈は苦笑いを浮かべ、和人に貰った細剣の鍔を握りしめた。
驚くことに、羽根のように軽い?ウインドフルーレ?という名のこの剣。剣なんて、使えればなんだっていい。そう思っていたけど、今は違う。わたしは、彼に貰ったこの剣を、ずっと大切にするんだ。
しかし数ヵ月後、彼は言った。
「この剣は……もうだめだな」
明日奈はしばらく、呆然と立ち尽くした。
ようやく、強ばる唇を動かす。
「だ、だめって……どうして?」
「ここ、見てみろよ」
和人が指差した先──レイピアの刃先を見る。使い込んだためか、もうボロボロだった。明日奈は、震える拳を押さえて言う。
「で、でも、研磨すれば大丈夫じゃない? あっ、わたしの友達にね、すっごく鍛冶の得意な女の子がいるの。その子に頼めば……」
しかし和人は、黙って首を振る。明日奈の眼に、込み上げてくるものがあった。
「……なんで」
明日奈の声は濡れていた。
「どうして……わ、わたし……」
「でも……さ。冷たい言い方になっちゃうけど……この剣、ウィンドフルーレは、初心者フェンサーが使うものなんだ。アスナの腕は大分上がってきてるし、今や学園トップクラスだって言っても過言ではないと思う。だからどの道、ずっとこの剣を使っていくのは難しいよ」
明日奈の口から、我ながら弱々しい言葉が零れた。
「わたし……そんなの、嫌」
スカートの膝の上で、右手を軽く握りしめる。
「……ずっと、剣なんてただの道具だと思ってた。自分の技と覚悟だけが、強さの全てだって思ってた。でも……あなたがくれたウィンドフルーレを初めて使った時……悔しいけど、感動したの。羽根みたいに軽くて、狙ったところに吸い込まれるみたいに当たって……。まるで、剣が自分の意思で、わたしを助けてくれてるみたいだった……」
唇にほんのわずかな笑みが滲んだ。
「……この子がいてくれれば大丈夫、わたし、そう思った。ずっとこの子と一緒にいようって。たとえボロボロに刃先が零れても、絶対捨てたりしないって約束したんだ。……約束、したのに……」
新たな涙が、かすかな音を立ててスカートに落ちた。
和人の返答は、意外なものだった。
「……解るよ」
「え……」
明日奈が伏せた顔を上げると、和人が真剣な顔つきで頷いた。
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