暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第二部 文化祭
Asuna's episode 出会い
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「明日奈お嬢様!」

 ハウスキーパーの佐田明代が、駆け寄って叫んだ。結城明日奈は靴を履こうとする手を止め、40代前半の小柄な女性に向き直った。

「……お嬢様。本当に、行ってしまわれるのですか?」

 明日奈は口許に笑みを浮かべた後、サッと真顔になって訊き返す。

「……母さんは?」
「奥様は、お仕事でお出掛けになっております」

 明日奈は本日何度目かの溜め息を洩らした。

「……娘が全寮制の学校に行くっていうのに、入学式に来るどころか、見送ってもくれないのね」
「……はい?」
「いいえ、なんでもありません。お見送りありがとう、佐田さん」
「滅相もございません。入学式には出席できませんが、心の中で応援しております」

 母親にも、せめてこのくらいは言ってほしかった。入学式に出られないのは仕方ないけれど、頑張りなさい、の一言くらいあってもいいではないか。
 明日奈は再び溜め息を洩らす。

「……じゃあ、佐田さん。わたし、もう行きますね。今日までありがとうございました」
「ありがとう、だなんて……。お嬢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 涙ぐむ佐田に軽く手を振ると、明日奈は外へ一歩、踏み出した。





 入学式から、早3ヶ月。明日奈の成績は毎度トップだった。1年生ながら、生徒会副会長にも任命された。
 しかし、?剣?の実技だけは、いつも次席だった。
 首席が一体誰なのか、明日奈は知っている。
 隣のクラスの、桐ヶ谷和人という男。顔は知らない。遊んでばかりらしい彼なのに、5教科の成績までも━━明日奈に敵わずとも━━常に上位に位置する。死に物狂いで勉強し、1位を勝ち取っている明日奈にとっては、まさに天敵とも呼べる存在である。
 ━━あんな人に、1教科でも1位を取られてたまるものですか。
 明日奈は?剣?でも1位を取ってやるべく、毎日剣を振った。速く。もっと速く。あの人の剣のスピードは、こんなものではない。速く。速く。速く──。
 明日奈はかつて、こんなに動いたことはなかった。だんだん、体を支える力が弱くなってくる。

 ──あ……もう……少し……もう少しで……速く……

 明日奈の意識は、そこで途切れた。





 かすかに消毒液の香りがする。
 明日奈が眼を開けると、保健室のベッドの上にいた。

「あっ……目が覚めた?」

 保健室の女の先生が言う。
 ━━そうだ。わたしあの時、倒れて……。

「大丈夫? もう少し休んだ方がいいんじゃないかしら」
「いえ、それには及びません。……ところで、一体誰がわたしをここへ運んだんですか?」

 運んでくれた、という言い方はあえてしなかった。だって、明日奈は頼んでいないから。

「ええと、名前
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ