真っ白な紙
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何時だ?」
「午前八時ですが」
壁掛けの時計を見て、ウィリアムは眉をひそめた。
当たり前の事に対して、フォークは爬虫類のような目をウィリアムに向ける。
つまらなそうに髪をいじりながら、息を吐く。
「十二時間だな、ウィリアム候補生。この十二時間に君は何をしていた?」
「何をとは……報告が遅くなったことでしたら、謝ります。私も殴られて怪我の治療を」
「もしだ」
ウィリアムの言葉を遮って、フォークは言葉を続けた。
「もし君がすぐに私に報告していれば、話は変わったかもしれない」
「ど、どういうことです」
「遅いということだ。君は授業で何を習ってきた、報告はすぐにという言葉を知らんのか。君がのんびりと、その無駄な鼻を治療している間に、こちらは全て終わっているのだよ。今更十二時間も経って何を期待している?」
「どういう事なのですか、フォーク先輩!」
「学外で喧嘩をして、あまつさえ怪我までさせるとは士官学校の学生としてはあるまじき行為。理由はそんなところだな、退学だ――貴様は」
フォークの冷静な言葉に、ウィリアムの顔が蒼白となった。
「ま、まさか。俺が――俺は学年主席ですよ」
「学年主席一人と、学年主席と戦術シミュレート大会四連覇の二人を天秤にかければ、どちらが重くなるかは自明の理だろう。君は何を言っている?」
蒼白となって、次に真っ赤になったウィリアムが拳を握りしめる。
震える体と怒りを込めた視線を、フォークはつまらなそうに一瞥した。
「俺を、俺を売るつもりなのですか」
「売るとは随分な言葉だな。君と組んだ覚えがない、利用した覚えはあるが」
「それで使えなくなったら捨てるつもりですか」
怒りにまかせて、ウィリアムが机を叩いた。
響く衝撃音に、フォークが肩をすくめる。
「こんなこと許されていいわけがない。それならば俺も出るところを」
「ケビン・ウィリアム候補生」
呼ばれた名前に、ウィリアムはフォークを見る。
爬虫類のような舐めるような目が、ウィリアムを見て、背筋を震わせた。
嫌らしく上がる笑みは、獲物を前にした蛇のようでもある。
「そんなことを、私が許すと思っているのかね」
「許さなければどうするのです」
「君の罪が増えるだけだ。銃の持ち出しに、それを使った殺人未遂もあるか、他にも叩けば幾らでも埃が出てきそうだな。調べてみるか? 言っておくが」
そう言って笑い、フォークは目を細めた。
「潔白な人間に罪を着せる事は難しい。無理ではないがね。だが、心にやましい記憶がある者に対しては、無実の罪を着せることなど、実に簡単なことだよ。まだ軍法会議にかけられず、退学だけですんで良かったと、私は思うのだが」
からみつく言葉に、ウィリアムは力なく席に腰を下ろした
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