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空を駆ける姫御子
第五話 〜アスナが機動六課に行くお話【暁 Ver】
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────── 夢でしか会えないのならずっと夢を見ていたいと思った。あの頃は。




 ずるずる。はふはふ。ずる、げほっ。ずるずる──── 桐生家の地下一階にある『工房』。桐生のデバイスマイスターとしての仕事場でもあり、彼の私室も兼ねている。とは言え、彼が作り上げたデバイスはアスナの『Flutter(フラッター)』が最初で最後であった。一度は試験に落ちたものの、二度目に資格を取得してから十年あまり。フラッターの制作以外は管理局や一般企業からの依頼で、デバイスのメンテナンス業などを熟すのみであった。

 桐生にはデバイスマイスターとしての『才能』がなかった。才能だけで言えば機動六課に所属している、シャーリー……シャリオ・フィニーノの方が遙かに上であろう。現に桐生は、フラッターを完成させるまでに資格を取得してから重ねてきた年月と同じ時間を費やしてしまったのだから。それらも全て──── 『アスナを守る』という桐生にとっては呪いにも等しい信念であった。その信念は。幸か不幸か、彼が作り上げた人格AIである『ボブ』にも引き継がれている。

「そろそろ、着く頃合いですかね」

『恐らく。……アスナがいなくなった途端にインスタント食品かい?』

 桐生は、カップラーメンを最後のスープまで飲み干すと、ごみ箱へと放り投げる。

「最近のインスタントは馬鹿に出来ませんよ、ボブ」

『私はインスタント食品やレトルト食品を馬鹿にしているわけじゃない。桐生は放って置くと、そればかり摂取するじゃないか。アスナに叱られるのは私なんだ、自重して欲しい』

 ミッドチルダでは既に骨董品の域にあるCathode Ray Tube(CRT)ディスプレイの中で不可思議なオブジェが怒りを表すように揺れていた。『ボブ』の姿は、ミッドチルダでは馴染みのない姿をしているが、地球人……特に日本人が見れば、思い当たる姿かもしれない。密教で使用する法具──── 独鈷杵であった。CRTからは部屋の至る所に設置してある機器や、大型コンピュータと太いケーブルで接続されていて『工房』と言うよりも『工場』と言った方が適切であるかのような風情である。

 ボブの小姑のような小言を右から左へと聞き流しながら、桐生の手は作業用デスクの上でオアシスを探す旅人のように彷徨っていた。工具やデバイスチェック用の機器、果ては堆く積まれた仕様書を踏破しところで目的のものは見つかったようだ。

「好きな時に好きな物を食べなくてどうするんですか。……好きな物を食べられないというのは意外と辛いものなんですよ」

 そう言いながら探し当てたシガレットケース(お宝)から煙草を取り出そうとしたが……何も入ってはいなかった。RPGで宝箱の中身が空だった時の気分を味わいながら、ごみ箱へと放り込
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