『何か』の出現
息ができない。喉の奥が引きつって声が出ない。
「死ね!」
「…………」
「気持ちわりぃんだよ!」
「…………」
僕はただそこに、うずくまっている事しかできなかった。
何度も殴られ、足蹴にされ、その度に襲ってくる痛みに震えているだけだった。
どうして僕だけが……どうして? どうしてこんな目にあわなければならなないの?
こんな姿だから? 僕がみんなと違うから?
「消えろ!」
校舎の目立たない場所の陰。僕は三人からひたすら一方的にやられていた。
顔は所々擦り切れ、口の中には乾いた土の感触と血の味が混じっていた。
楽しそうなその顔を見上げると背筋が凍る。どうして笑いながらこんなことが出来るのだろう。
助けてくれる人なんてどこからも現れない。僕は独りだった。
痛い。背中が割れるように痛い。
「うわ……! うわぁ!」
意識がもうろうとし、僕の中の『何か』が目を覚ます。
「なんだこれ! やばいって!!」
僕の小さめの体に宿った、心の中の大きな『何か』。その『何か』は僕の心の全てを押しつぶし、どんどん大きくなる。
「おい……こんなのって……!」
悲痛な叫び声は、すでに聞こえなくなっていた。
大きな大きな怪獣のような『何か』に、僕は心も体も食い尽くされた。
――目が覚めた時に目の前にあったのは、地面に散った三人の体と、乾いた土を濡らす赤い水たまりだった。
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