第1部:学祭前
第3話『前兆』
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に入ってくれて嬉しい」
唯は思わず、はしゃいでしまう。
「! 言葉?」
ふと、言葉の視線を感じた気がして、誠は入口のほうを向く。
……が、そこには誰もいない。
「どうしたんですか?」
聞いてきた唯に対し、何でもないです、とだけ答えた。
「どうでもいいけど、口にクリームが付いてますよ」
苦笑いしながら、誠はティッシュを取り出し、唯の口についたクリームをふき取ってやる。
ティッシュを通じて彼の手のぬくもりが伝わり、唯の鼓動がトクトクと速くなった。
ちょこちょこ羽目は外すのに、ついついスキンシップをかけちゃうのに、彼はにっこりして受け入れてくれる。
なんだか自分より、誠のほうが大人っぽく感じる。
自分より年下なのに、なぜだろう。
「そうそう、ケーキのお勘定はどうしましょう?」
「あ! 全部私が払いますよ」
おもわず唯は声をあげた。
「で、でも……」
「いえいえ、今回は私が無理して引きとめちゃったみたいだし、せめて物施を……」
話しながらカウンターへ行き、まとめ払いです、とレジの人に声をかけた。
とはいえ、珈琲ほどではないが、ケーキもかなり高い。
2人分払うだけで、今月分の小遣いはなくなってしまった。
「ほんと、すみませんね……」
すまなそうな誠の表情を見て、いえいえ、と首を振る。
「そんなことないです! 伊藤君がうれしいなら、すごく私もうれしいですよ!
こんな……こんな気遣いしか出来なくて、ごめんなさい」
顔を赤らめ、唯は答えた。
喜んでくれただろうか。
唯はいつもの癖で、好意を寄せている人の腕にスキンシップをかける。
日はもうとっくに暮れ、駅の入口からは、黒い闇と一直線にともる電燈が見える。
唯も誠も、肩を並べて歩くこと、触れ合うことにいつの間にか違和感を感じなくなり、恥ずかしいとも思えなくなっていた。
駅の改札口まで、二人は歩いた。
「平沢さん、ありがとう。今日はいい時間が過ごせました」
「うれしいなあ。またいつか誘うね! それでは、おやすみなさい!」
後ろを向いた誠を見て、唯は思い出したかのように、
「あ、そうだ! 伊藤君!」
携帯電話を取り出す。
「せっかくだから、メールでもお話しましょうよ。赤外線で私のデータ、送ります」
「じゃあ、俺も」
誠はからっと笑って、青い携帯をとりだした。
赤外線送信は携帯を近づけないとできない。
携帯を近づけて、思わずお互いの手の甲が触れ合う。
「あれ、おっかしいなあ……。うまく出来ないや」
「あ、たぶん平沢さんの携帯には背中についているんだと思います。……やっぱり」
「あ、ごめんなさい……最近なかなか使わないもので」
「しょうがないですよ。おまけに送信するときはパスワードを入
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