第1部:学祭前
第3話『前兆』
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込む。
「うわあ、珈琲一杯で1155円……」
「無料券対象だから大丈夫ですよ。それに、値段が張る分だけ珈琲の質が良いということです。」
唯も珈琲通というわけではない。
ただ単に、高いものほど価値がある、そういう考え。
「コロンビアがこの店で一番のお勧めなんですよ」
「じゃあ、俺もそれで。よく来るんですか、ここ?」
「はい、いつもは妹と来ることが多いんですけど、せっかくだから伊藤君にも教えたいと思って」
「そっかあ、いいところを知ってるなあ。俺にも妹がいるし、今度連れてこようかな」
「伊藤君にもいるんですか、妹?」
「ええ。別れた親父に引き取られてるんですけど、どうも俺のほうに懐いていてね。よく家を飛び出してこちらに来るんですよ。
『おにーちゃんのはんばーぐー!』なんて、よく俺の手料理をねだってね」
誠は笑いながら言った。父のことは、言い出したくなかったが。
「そう……ですか……」
唯は、誠が料理できると聞いて驚きつつも、彼の家庭事情を聞いて、少し心を痛めた。
でも料理もできるんだ。
私なんか、妹がいないと料理も洗濯もできないのに。
自分より年下なのにしっかりしている。
それは父がいなくて、いろいろ苦労したからなんだろうなあ。
一方の誠は、唯の表情が曇ったのを見て、しまった、と思った。
なんか話しやすいからつい喋ってしまったが、複雑な家庭事情を誰か(まして異性)に話すなんて、自分も口がちょっと軽すぎる。
話題変えないと、と思っていると、唯のほうから別の話題を持ちかけてきた。
「コロンビアはまろやかでね、コクがあるんですよ」
あてずっぽう。
「へえ。俺は苦みの強い奴が、コクがあると思ってました」
素人同士のトンチンカンな会話。思わず苦笑い。
誠は、ちょっと気まずいな、と思い、新しい話題を思いついて、
「話は変わりますけど、平沢さんはいつからギターを習ってるんですか?」
「実は軽音部に入ってからなんです。
最初は軽音を、軽い感じの音楽しかやらないと思って入部したんですけど。口笛とか。
バンドだと知ってあわてたの、昨日のことのように覚えています。
迷いましたよ。その時はカスタネットしかできなかったし……」
いや、カスタネットはともかく、口笛ってどうだろう……? 大道芸にはなりそうだけど。
どうもこの子、かなりの天然と思われる。
「でも、ギターを高校1年から始めて、そこからリードギターを務めるまでに成長するなんて、すごいじゃないですか。めっちゃ練習したんですね」
「そんなことないですよ……」唯は思わず、顔を赤らめた。「部員が5人しかいませんからねえ」
「5人かあ……部員集めがちょっと大変そうだ」
「本当は伊藤君にも入部してほしいんだけど、違う学校だし、無理
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