第1部:学祭前
第3話『前兆』
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いていく。
「あ、あの……平沢さん。人前なんですから、あんまりくっつかないでくれません……?」
「いいじゃないですか、一緒にお茶するんですし」
一定の壁を超えると、もはや唯、ためらいがないらしい。きつく誠の腕にしがみついて、顔をすりよせている。
本当に子供っぽい。
周りの人が2人を見て、ぼそぼそと話しているのを、誠はすこし気にした。
「どうしちまったんだ、唯の奴…………」
あごに手を当てながら、澪は帰路につく。
いつもは唯、律と並んでなかなか練習せず、お茶とお菓子を食べながらダラダラしているのに。
あまりにも、変わり過ぎだ。
そう思いながら、桜ケ丘の正門を出て左に行き、目を見張った。
唯が、彼女と同い年程の男子生徒と、肩を並べて大通りを横切っている。
男子生徒の腕を引き寄せて。
「唯……。あれは、榊野の…………?」
いつの間に唯、彼氏を作ったのか?
それも、榊野の男子生徒と。
「うわあ……ちょっと憎いな、唯の奴……」
彼氏の赤らんだ横顔を見ると、なかなかの好青年に見える。ドキリとなる。
ふと、彼氏を作るために、一生懸命本を読んでいた律の姿が思い浮かぶ。
気になったので、2人を尾行してみることにした。
件の喫茶店は、榊野学園駅東口を出て、すぐ右手にある。
スターバックスやドトールコーヒーよりも高級な飾り付けと、クオリティ高い珈琲豆を仕入れており、一介の学生には手の届きにくい店である。
「はあー、到着うー!」
幼子のような唯の口調。
「俺、ここに来るの初めてですから、ちょっと緊張しますよ……」
誠は少し、ネクタイの位置を調整する。
ドアの鈴の鳴る音とともに、唯と誠は中に入る。
黒いブレザーの店員がゆっくり、深く頭を下げ、2人をテーブルに案内した。
「こちらへどうぞ」
4人がけの丸テーブルに案内され、誠と唯は向い合せに座った。もちろん荷物は、それぞれとなりの椅子におく。
誠の後ろには、30p位はある花瓶があり、さらに奥には黒いグランドピアノ、そして窓がある。これならば、外から見えにくい。
「ここなら大丈夫だな……」
つぶやく誠に、
「どうしたんですか?」
と唯は聞く。
「あ、いや、独り言です」
唯の後ろ側にはカウンターがあり、壁の棚には、ターコイズ色、エメラルド色のラベルで染まったティーカップ、ピーターラビットの描かれたものなど、様々なティーカップがびっしりと並べられている。
このおしゃれなデザイン、静かな感じ、どれも唯のお気に入りなのである。
ショパンの静かな音楽に耳を傾けながら、唯はにっこりほほ笑む。
誠も、それにつられて笑顔を返した。
何を話してよいものやら。
迷いながら誠は、唯とメニューを覗き
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