第1部:学祭前
第3話『前兆』
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た、ある日のことである。
唯は手元の券をのぞきこんだ。
『喫茶店ベラ・ノッテ
珈琲無料券』
行きつけの喫茶店の割引券である。2枚ある。
朝起きて、机の奥の奥から見つけたのだ。
しかも、期限は今日まで。
しまっている間に忘れてしまったものとみられる。
「あそこの珈琲、とてもおいしいからなあ。マコちゃんも好きになるかなあ……」
ベージュ色の券を見つめながら、唯は独りごちた。
朝食の席で、もう制服に着替えた憂が、唯に声をかけてきた。
「ねえ、お姉ちゃん、ベラ・ノッテの券って来た?」
自分の行きつけの店だったのだが、妹の憂にも紹介して、しばしば2人で行った店だったのである。
男の人と一緒に飲む。そう答えるのが妙に恥ずかしくて、
「いや、来てないよ」
と答える。
「そろそろ来るころなんだけどなあ……またお姉ちゃんと、あのおしゃれな店で話したいなあ。」
遠い目をする。
心の一部で、罪意識みたいなものがうずきながらも、振り切って家を後にした。
いつものような日常が続いた、午後。
誠は例のコンビニで、漫画を読んでいた。
世界は学祭の話し合い、言葉は委員会活動があり、あいているのは自分だけなのである。
もっとも自分の役割は、学祭近くになって多忙になってくるのだが。
実を言うとあまりここで、油を売る必要もないのだが、あえてここにいる。
あの人が、来るかもしれないから。
「ま……伊藤くーん!」
来た。
「またいつもの時間ですね、平沢さん」
いつものようににっこりほほ笑み、誠は入口にやってきた。
ふと、唯の表情に多少の緊張があることを、彼は悟る。
「あ、あのですね、伊藤君……」唯が、頬を染めてうつむく。「あの……とってもおいしい珈琲の無料券があるんですけど……今日、一緒、に、どうですか?」
誠は唯が見せた、珈琲無料券を覗き込む。
喫茶店ベラ・ノッテ。
彼は珈琲通というわけではないが、あそこの珈琲は美味だという噂を結構聞いている。
行こう行こうと思いつつ、なかなか行けない場所の1つであった。
「やっぱ……だめかなあ」
唯が残念そうな表情になる。ほんと、彼女は分かりやすい。
「い、いやいや……俺もあいているし、大丈夫ですよ」
唯を傷つけてしまうのが嫌で、誠は気がつくとうなずいていた。彼女はすぐににぱっと笑みを浮かべ、
「よかった! じゃ、さっそく行きましょう」
「あ、でも、ちょっと……人気のない道って、ないかなあ。」
こんなところを世界や言葉に見られてはかなわない。
「そうですねえ、このあたりに細道があるから……」
細道か……いささか恐喝のターゲットにもなりかねないが、まあ他人の目はごまかせるだろう。
唯の案内するまま、誠はつ
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