暁 〜小説投稿サイト〜
Cross Ballade
第1部:学祭前
第3話『前兆』
[1/9]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 唯の練習ぶりに、弾みがついた。
 誠と、話して以来、である。
『俺も、放課後ティータイムの演奏、楽しみにしていますよ』
 その言葉だけが、唯の頭に残り、何でもかでも、滅茶苦茶に練習したくなって、昨日よりは今日、今日よりは明日と、ものすごい加速度をもって、半狂乱のような獅子奮迅を続けた。
 部活では、ムギの茶菓子を一口で平らげ、いつものようにだべりもせず、すぐにギターの練習に取りかかる。
 それから休まず、水も飲まずに練習を続け、それから帰宅して、食事と入浴を済ませると、すぐにギターをとって、歌と演奏の練習を、深夜まで続けた。
 そんなに練習して、死んだように眠って、その翌朝は目覚まし時計が鳴る音と共にはね起き、朝食まで発声練習をした。

 もちろん、部員たちはおどろきおののく。
「おいおい、どうしちまったんだよ、唯だけは私の仲間だと思っていたのに……」
 いつもは唯と並んで、練習を始める時間の遅い律が、唖然と話しかける。
「何いってんの、ライブも近いじゃない。たまにはしっかりと練習しないと。それに、たまに泊りがけで練習することもあるでしょ?」
 唯は朗らかに、笑って答えた。
「唯ちゃん、私はもう少し、ティータイムの時間がほしいけどなあ」
 さわ子もあまり乗り気でない。
「さわちゃんたちはいいよ、マイペースで。私も、マイペースでやってるだけだから」
「これがマイペースと言えるかや。どう見ても躁状態だろうが……」
 律は呆れて、呟くように言う。
「いや、いや、よかったですよ!」梓だけが、大喜びである。「いつもいつも唯先輩、全然練習しないから困ったもんだと思ってたんですよ。やっと真面目になったんですね」
「ああ、あずにゃん、ひどい! 私だってやる時はやるんですからね!!」
 唯は、むくれてみせる。
「冗談ですよ。さ、一緒に練習しましょうか」
 梓は笑って、ギターの調整を始めた。唯もそれを見て、ギターのネジを回す。

 不意に肩をたたかれたので、そちらを向くと、澪がけげんそうな表情でいる。
「唯、最近変だぞ。何かあったのか?」
「べつに。ただ、ライブでは悔いのないように、全力で取り組んだほうがいいかと思って」
 あからさまな疑りの視線を向けられ、唯は思わず目をそらして、言った。
「澪先輩、いいじゃないですか。唯先輩があれだけやる気を持ってくれるなんて、初めてじゃないですか。私は嬉しい限りですよ」
 梓が満面の笑顔で、澪をたしなめた。
「……まあ、真面目になったのはいいかもしれないが、なんか私は不安でしょうがないんだ。いったい、何があったのやら……」
 しかし澪は、不安な思いを隠せなかった。
「さ、唯先輩、合奏の練習しましょうよ」
「そうだね、あと少し頑張ろう、あずにゃん!」
 梓の誘いに、唯は快い
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ