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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第76話 名付けざられしもの
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夜に現れて、ルイズとダンスを踊っていた俺の二重存在らしき存在が発して居た気配。
 それとほぼ同じ気配を、目の前の俺そっくりの姿に変わったナナシの権兵衛は発して居たのですから。

 しかし――――
 しかし、内心の動揺を自らの矜持によって無理矢理ねじ伏せ、鷹揚にひとつ首肯いて見せる俺。
 そう。相手の気に呑まれると、そのまま相手の術中に嵌るのが魔術の基本。この程度の幻術で一々驚いて居ては、生命が幾つ有っても足りませんから。

「成るほど。矢張り、あの夜に顕われたのは俺の二重存在などではなく、俺の姿を偽った何モノか、だったと言う事か」

 そうして、かなり冷静な思考の元に、そう答える俺。
 ましてあの夜に顕われた存在が俺の二重存在ならば、能力も俺に準じているはずです。
 しかし、あの夜に顕われた存在は、俺をあっさりと自らの術の影響下に置いて仕舞いましたから。

 流石にこれは異常。いくら俺がマヌケな上に準備を怠っていたとしても、いともあっさりと俺を催眠状態に落とす事は難しいはずです。
 もっとも、あの夜は戦闘に対する準備を行うには、俺を着せ替え人形扱いしたキュルケが傍に居た為に、十分な準備を行う事が出来なかったと言う事情も有ったのですが。

 ただ、それ……俺を簡単に術の効果に落とす事が出来たと言う事は、それに準じた伝説上の能力をこの目の前のナナシの権兵衛が持って居たと言う事です。

 そう、それはつまり……。

「成るほど。あの夜の俺は、玉座にすわるもの。黄衣の(キング)のダンスを見て仕舞ったと言う事か」

 伝説や狂気の書に記されている名づけざられしモノの化身のひとつ、黄衣の王と言う存在のダンスを見た者は魅了状態に陥れられると言われて居ます。そして、伝説や伝承には当然、それなりの霊力と言う物が籠められて居る物でも有ります。
 但し、伝説の格……古さや、世界中で語り継がれている物語の多さで言うのならクトゥルフの邪神よりも龍の方が格は上。更に、あの夜には俺の気付かない内に、俺の能力を神。龍神の域にまで押し上げる巫女の存在が傍らに居たのですから、例え相手が黄衣の王だったとしても簡単に致命的な被害……精神的な実害が残るような被害を受ける事はなかったと言う事ですか。
 そもそも俺は龍神。王などに簡単に遅れを取る訳には行きません。

 そして彼女は未だ俺の傍らに有り。この部分に関しては何の問題もない。
 それならば、

「トコロでなぁ、ナナシの権兵衛さんよ。ここに居る翼人たちの傷の治療をしてやりたいんやけど、出来る事ならこの場は見逃してくれる訳には行かへんかな」

 ヤツ。ナナシの権兵衛に何のメリットが有って俺の問いに答えてくれているのか判らないのですが、それでも会話が通じるのなら何とかなる物です。
 
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