第5章 契約
第76話 名付けざられしもの
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して来る革手袋の青年。
成るほど。言葉を交わす事は可能な相手と言う事ですか。
「それはすまなかったな。俺の名前はルイス。そして、こっちの少女はタバサ。ちょいとしたお仕事でこの翼人のコミュニティにやって来たんやけど」
そう自己紹介を行った後、赤とも黒とも付かない色に染まった周囲を見回しながらそう答える俺。おそらく見た目から考えると、俺やタバサの方もかなり奇妙な存在で有るのは間違いないでしょう。
明け方が近いとは言え、高緯度地域の晩秋。森の中、それも山に囲まれたこの地に朝の息吹は遠い。むしろ濃く垂れ込めた死の影により、世界は普段の夜よりも更に深い闇に沈んで居ると思います。
そんな、夜中と言っても良い時間帯。更に、人払いの結界に因り守られたこの翼人のコミュニティを訪れた少年少女。そして、この死臭漂う異常な状況下に置いて取り乱す事もなく、冷静な態度で臨んでいる存在ですから。
俺とタバサのふたりの方も十分に怪しい存在だとは思いますね。
第三者的な視線から考えて見たのならば。
その俺の自己紹介をあまり興味のない、と言うか、やる気を感じさせない視線及び雰囲気で聞いていた青年。
そして、
「成るほどな。うかつに本名を口にするマヌケと言う訳でもないか」
……と、そう言った。
本名を口にしない。成るほど。こいつは、ハルケギニア世界ではあまり表に出て来ない類の、俺が元々暮らして居た地球の魔法の世界に近い状態に身を置く存在と言う事ですか。
そう考えながら、まるで地球世界の男子高校生のような服装の青年を、改めて強く見つめる俺。
それに、そもそも魔法使いに対して本名を名乗ると言う事が危険だ、などと言う思想は、このハルケギニアの表の世界には存在して居ませんから。
存在して居るとしたらそれは裏の世界。
俺やタバサが現在立っている場所で、モンモランシーやその他の人ならざる存在たちが暮らして来た世界。
まして、相手の本名を知ったのなら、俺でも有る程度の呪詛を行う事は可能ですから。
呪詛を返す事が出来ると言う事は、つまり、相手の行って来ている呪詛の原理をある程度理解出来て居ると言う事。そして、理解出来て居るのなら、それを行う事は理論上可能ですから。
但し、出来るからと言って、俺がそんな陰の気に満ちた行いを為せば、俺自身が徳を失う事と成りますから、現実に行う事は有り得ないのですが。
「俺には名前はない。だから、好きに呼んでくれて構わないぜ」
俺が少し考え事をしている空白を見計らった様に、青年がそう答えた。
但し、その瞬間に周囲の気温が更に下降線を辿り、夜の闇は更に濃く成って行く。
そんな、俺の心の中に冷たい何かを差し込んだ青年は、そんな事など気にし
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