1年目
冬
冬A〜光〜
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愛華がバンドを抜けてから3日が経った。
バンドを抜けることを聞かされた時、俺は激しくその理由を問いただしたが、愛華は“本当に申し訳ない”と俺たちに深く頭を下げるだけで一向に理由を話そうとはしないでいた。
そのいつもは自信たっぷりの目に、光は宿っていなかった。
俺は何もする気が起きずベッドに寝転がっていた。
「拓海ぃ。今日はバンド練習行かないのー?」
ベッドの上では「彼女」がフワフワと浮きながらこちらの様子をうかがってくる。
「あー…。今日はいいよ。やる気起きないし。」
「彼女」は、珍しいこともあるものね、と言いながらテレビの前まで行くとその目の前に座る。そして電源が入ると、そこには、最近人気のバンドグループがまばゆい光に照らされながら歌っているのが目に映った。そこに映る姿を自分と愛華に置き換えて想像し、なんだか虚しい気分になって寝がえりを打った。
…なんでだよ。
医者になると聞いたときから、いつかはそうなるものだと想像していたが、あまりにも唐突来た“その時”に俺は納得出来ずにいた。
「拓海ってばー。テレビ見ないのー?拓海の好きな音楽番組だよー?」
「いいって言ってんだろ!ほっといてくれよ!!」
自分でもわかる完全なやつあたり。その荒々しい声に「彼女」はビクッと体を震わせ、ごめん、と一言呟いた。
…なにやってんだよ、俺。
「彼女」は関係ないはずなのに、その「彼女」すら傷つけてしまっている。そんな自分にイライラした。
ふー、っと一息つくと、ベッドから起き上がりそこに座ると「彼女」へと体を向けた。
「わるい。少しイライラしてしまってた。」
そんな言葉に「彼女」はおどおどした様子で“大丈夫”と答えた。
「でも、拓海がそんな風になってるの見るのは初めてだから…。私どうしたらいいかわからなくて…。」
そう俺に向けて放つ言葉にどこか愛おしさすら感じる。俺は“ありがとう”と少し微笑みながらその頭を撫でた。
その行為に「彼女」は気持ちよさそうに目を細めた。
俺らしくもない。
思い立ったら即行動が俺の理念だったはずだ。この部屋だってそうやって決めたんじゃないか。結果的に悪霊がもれなく付いて、いや“憑いて”くる形になってしまったが、そのことすら今は良かったと感じている。
そんなことを思いながら「彼女」を見ると“どうしたの?”と首をかしげていた。その様子に一言“なんでもねぇよ”と笑いながら返すと、俺は立ちあがる。そして、そばにあった厚手のジャケットの袖に腕を通し、玄関へと向かう。
その足取りは何か覚悟を決めたかのようにどっしりと、そしてしっかりと地面を踏みしめていた。
「それじゃ行ってきます。」
いつも通りのセリフの
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