1年目
冬
冬A〜光〜
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は、驚きの表情を見せ、その場から離れようとする。しかし、それよりも早く俺の手はその“光”を掴んだ。
「どこ行くんだよ!?」
「……離せよ」
そう言いながら俺の手を振りほどこうとするも、俺は愛華の手を掴み離さない。口調は男勝りだが、その手はやはり女の子だ。
「ほっといてくれよ。あたしはもうメンバーじゃない。どこに行こうが、何をしようがあたしの勝手だろうが」
そう言われて俺は口ごもる。愛華を探すまでは良かったが、会った時何を言えばいいのか考えてなかったからだ。
「理由も言わず辞めちまって、俺はまだ認めてないからな!」
そんな以前に何度も言ったセリフしか俺の口からは出てこられずにいた。
俺は本当にこんなことを言うために愛華を探していたのだろうか。
そう思うと心の中に霧がかかったような感覚を覚える。
「拓海が認めようが認めまいが、あたしはもうバンドはやめたんだよ! それ以上このままでいるなら警察呼ぶぞ!」
警察なんて呼ばれてもいい。犯罪者になったっていい。
もし今この手を離せば、愛華は俺の知らないどこかに行ってしまうような気がしていた。
「せめて理由だけでも教えてくれよ! そんなんじゃ諦め切れねぇよ!!」
「なんでそうまでしてあたしなんだよ!! あたしより上手いボーカルなんて他にもたくさんいるだろうが!!」
そのセリフにハッとして、俺は自分が本当に言いたかった言葉に気付いた。
すぅっと息を吸い込み、その目を見つめると俺は淡々と愛華に向けて言葉を紡ぐ。
「俺がお前を、愛華をずっと信じてきたからだ。夢を掴もうともがき続けるその姿を。俺はそんなお前と夢を追いかけたくてこの街まで来たんだ」
その言葉を発した途端、先ほどまで抵抗していた愛華の力が抜けていくのを感じた。そして、その大きな目からはいくつもの涙がこぼれ落ちる。その涙は周りの光を取り込んで、街中のどんなイルミネーションよりも美しく見えた。
「あたしは、そんなお前を裏切っちまったんだよ……。ずっとあたしのことを信じてくれるお前のことを……」
そう言った後、愛華は少しずつ俺に話してくれた。誰にも言わずに通っていたはずのボイストレーニング教室のことが親にバレたこと、それを俺のせいだと疑ってしまったこと、そのせいで俺にだけは顔を合わせ辛くなってしまっていたこと。ゆっくりと、だが、しっかりとその言葉は俺の耳に届いた。
それを聞いて俺の中の霧に晴れ間が差し込む。
「愛華、俺はお前とずっと一緒に音を奏でていたい。夢を追っていきたい」
「あたしもだよ。拓海とバンドがしたい」
泣きはらした目は赤く腫れあがっていたが、その瞳はいつも通りの強い眼差しに戻っていた。
ここまでくればもう俺の中で答
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