Mission
Last Mission アルケスティス
(3) マクスバード/リーゼ港 A
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かった。
「……兄さん。本当にこれ以外の方法はないのか」
「ない」
ユリウスの即答は呵責がなかった。
「『カナンの地』に入るには、ハーフ以上の能力者――この場では俺かお前、どちらかの命が要る。それがクルスニク一族の宿命なんだ」
ビズリーが宿命を「呪い」と表現した意味を、ルドガーはようやく理解した。こんなのあんまりだ。理不尽すぎる。哀しすぎる。分史世界の命をさんざん取捨選択させられて、今度は正史でさえ命の選別をしろというのか。
「そんなに悩むことはないさ」
ユリウスは左手の手袋を外して捨てた。手袋の下にあったのは、手袋の革よりなお黒い――呪いの刻印。クロノスが言っていた「成れの果て」。これが。
「どうせもうじき俺は死ぬ。俺には時間が残されてない。どうせならこの命を意味のあることに使いたい。俺の命で、『魂の橋』をかけさせてくれ」
死にたくない、と昨夜叫んだ。今とてありったけの想いで、偽らざる本心だ。
だが、ルドガーが生き残るためにユリウスを殺さなければならない? そんな選択肢は端から頭になかった。見通しが甘いと責められればそれまでだが、ルドガーはユリウスが死ぬ未来をこれっぽっちも想定していなかった。
「! ぐ…っ!」
「兄さん!」
倒れた兄に慌てて駆け寄り、上体を支える。左手の黒が面積を増している。ユリウスの体が無機物へと変えられていく。ルドガーは思わずユリウスに縋った。
「……うちに帰れ、ルドガー。やっぱりお前には無理だったんだ」
優しいはずの兄の言葉は、一瞬でルドガーの心を黒く塗り潰した。さながら「カナンの地」出現の時の白金の歯車が、月を泥で冒したように。
「――ない」
「ルドガー?」
「できない…! 俺にはできない! 俺は兄さんを殺せないッ!」
世界の存亡と言われてもピンと来ない。壊した分史の命を背負うといっても実感が持てない。だから世界救済のお手本であるジュードらの気に添うであろう行為をしてきた。だから皆に、会社に流されるまま、唯一の肉親を殺すという最悪に辿り着いた。
ジュードたちはユリウスを殺す。心優しい少女たちは別の方法を、と訴えているが、2000年でそれが模索されていないはずもない。現に、ルドガーたちが探しても有効策は見つからなかった。世界のために個人を惜しんでいられる状況ではないのだと、そう諦めて彼らはユリウスに剣を向ける。
「いくつもの世界を破壊してここに立っているお前が、ここで世界を放棄するというのか!」
「世界世界うるさいんだよ! そんな現実味のないもんで人の人生に踏み込んでくるな!」
ルドガーは立って吼え返した。初めて、明確に、己の意思で、彼らに反抗した。
「エルの言う通りだよ。あんたた
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