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レンズ越しのセイレーン
Mission
Last Mission アルケスティス
(2) マンションフレール302号室 A ~ マクスバード/リーゼ港 @
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たまま首肯した。

 ベッドを出て、身繕いをする。その間、ユティは眠そうにこっくこっくと首を上下させていた。眠れたかをルドガーに尋ねたくせに、本人は夜更かししたらしい。

「ユティ。おい、ユティ」

 軽く肩を叩く。ユティは寝ぼけ眼でルドガーを見上げてきた。彼女は一度眼鏡を外すと、頭を振って、メガネをかけ直して立ち上がった。いつものユースティア・レイシィだ。


 二人(と一匹)で出発する前に、ルドガーは部屋全体を顧みた。

 部屋の片隅で静かに存在を主張する他人の荷物。増えたカップ。増えた椅子。様変わりした部屋。何もかもが。

(とうとうここまで来たんだな)

「どうか、した?」
「何でもない。行こう」

 ついにルドガーは、部屋を、出た。



 トリグラフ中央駅からマクスバードへ列車で行き、シャウルーザ越溝橋を渡って、リーゼ・マクシア側のマクスバードへ向かう。ルドガーもユティも無言で歩いた。ルルすら自分たちの緊張を察してか、鳴き声一つ上げなかった。

 ――マンションを出てルドガーが真っ先にしたことは、ジュードへの連絡だった。大事な話があるから集まりたい、と頼んで。するとジュードも、

『そう……あのさ、僕もルドガーに大事な用があるんだ。マクスバード/リーゼ港まで来てもらっていい? みんなもいるから』

 待ち合わせの時間はまだまだ先だが、先に着いて悪いことはないとユティに言われ、こうして向かっている。

 ルドガーは、ジュードたちと顔を合わせたら、真っ先に手を切ると宣言するつもりでいた。彼らが世界を救うならば、必ずルドガーかユリウスの命を奪いにくる。そして彼らが標的と定めるのは兄より自分のほうが可能性が高い。

(ごめん、ジュード。いくらお前でも俺の命はやれない。俺の命は俺のものだ。ヒトに好き勝手されるなんて許せないんだ)

 ――この時のルドガーは、心のどこかでまだ信じていた。ジュードたちは良心的な人間だ。ルドガーが本気で拒否すれば諦めてくれる。決して拳や刃を向けはすまいと。

 だが、それが逃避であったことを、ルドガーは思い知る。

 リーゼ港の埠頭で集まったカレラと対峙するように、今日まで音沙汰なかったユリウスが立っていた光景によって。
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