表彰式
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、学年主席が――それもライナやウィリアムのような顔の良い人間が賞状を受け取った方が宣伝になると考えたとしても、不思議ではない。
いわば出来試合のようなものだ。
「先輩――」
少し長く考えていたようだ。
既にヨブ・トリューニヒトの姿は壇上にあって、優勝者の名前が呼ばれている。
代表として立ち上がれば、静かに壇上のトリューニヒトの前に立つ。
背の高い男であった。
アレスよりも一回り大きく、上から見下ろされる結果となった。
形ばかりの読み上げが終わり、賞状を受け取れば、手が差し出される。
片手に賞状を持ったままに、手を握れば、逆の手が肩に回された。
「素晴らしい戦いを見せてもらった。まさに諸君らがいれば、自由惑星同盟は銀河帝国に負けることはないと、私はそう確信する」
熱のこもった声で語りかけられれば、肩を二度叩かれた。
誇らしげに語る様子に、アレスは礼を言いながら、なるほどと理解した。
初めてあったが、ヤンが不満に思う理由がわかったように思う。
熱意ある言葉をかけながら、そこに彼自身の言葉はない。
ただカメラ受けを――正確に言えば、同盟の市民受けをする言葉を伝えているだけだ。おそらくは市民の意見が逆を向けば、彼は平気で同じ口で逆の意見を語るだろう。ちょうど、銀河帝国に従った原作のように。
彼自身の目的は権力を手中にすると、単純明快な理由だ。
そのために同盟の市民に従う言葉を口にする。
逆に言えば――これが今の同盟市民の言葉ということなのだろうな。
吐き出し掛けたため息を飲み込んで、トリューニヒトに肩を叩かれながら、笑顔で礼を言った。
ヤンが嫌っていたのは、単純にトリューニヒト個人だけではなかったのだろう。
もちろん自我を表に出さず、飾り付けられた言葉だけを口にする異質さに恐怖した点もあったのであろうが、何より彼の姿勢が全て同盟市民に向けられているということを理解することが嫌だったのだ。
彼が語る言葉。
彼の偽善。
そして、主戦論。
それら全ては、即ち同盟市民の望みを現している。
もし反戦派が主流となれば、彼はこの口で平然と戦争の無残さを口にしただろう。
同盟市民がそこまで愚かであると理解したくない。
その想いが、単に彼だけを嫌う理由となったのではないかと思う。
……人間がそこまで賢いわけではないと思うけどな。
形だけの表彰が終わって、握手を終えれば、アレスはゆっくりと壇上から降りていった。
別段トリューニヒトに恨みはない。
ヤンのように嫌悪を感じたわけでもない。
ただ、壇上の下で一度振り返って、アレスはトリューニヒトをもう一度見る。
思いだすのは、彼の言葉だ。
銀河帝国に負けることはないか……戦争を
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ