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空を駆ける姫御子
第二話 〜始まる前のお話 後編【暁 Ver】
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首になってるわよ」

「嘘でしょう?」

「ホントよ。あなたが一緒にいた連中……名前は覚えてないけど、申請を取り消すために随分と頑張ったのよ? だけど結果的に賞金首として手配されることになったわ。……王族に連なる『然る高貴な小女』を誘拐して殺害した凶悪犯よ。ここにあなた達のいる場所なんてないのよ」

「どうしてそんなことに」

「さぁ。アスナが表に出てくると都合の悪いヤツがいるって事じゃないの。戦犯として突き上げられる可能性がある連中とか。アスナの『力』と自分達の立場を天秤に掛けたってとこでしょうよ。死人に口無し、やだやだ」

「そう、ですか」

「あなた達に必要なのは、休息よ。その娘と暫くのんびりしなさい」

 そう言った彼女の顔は出来の悪い息子を見るような顔で。とても穏やかな顔で。母親を思い出すような顔だった。






 彼女が腕を一降りするといつぞやと同じ扉が現れた。

「後、これ」

 彼女がそう言って渡そうとしたのは小さめのアタッシュケース。

「これは?」

「これから行く先の世界で使える現金が入ってるわ。暫く大丈夫なはずよ。住む場所も用意するわ。後で連絡する」

「……サービス過剰じゃありませんか?」

「あなたね……知り合いもいない世界で、こんな小さな娘を抱えてどうやって生きていくつもりよ、馬鹿じゃないの? ……頼る時はとことん頼りなさいな」

 リリーはそう言いながら、アタッシュケースを桐生へと突きつけた。

「わかりました、ありがとうございます」

 そう言いながら桐生は、初めてリリーと会った時のような穏やかな表情で微笑んだ。






「さぁ、準備はいいですか? アスナ」

 アスナは返事をする代わりに桐生が着ているコートの裾を握りしめ頷いた。

「では、行ってきます。リリー」

「いってらっしゃい、桐生。アスナ」

 アスナは扉が閉まるまで、紅葉のような小さな手をちぎれんばかりに振っていた。彼は再び扉を潜っていった。最初は一人で。今度は二人で。

「さて、行きますか」

 リリーは次にやるべき事を考えながら、その『世界』からかき消えた。






 二人が扉を潜ると青空と草原が広がっていた。小高い丘の裾野に広がる緑の絨毯と忙しない鳥の鳴き声が聞こえる一本の大樹。遙か前方には高層ビルのような近代的な建築物が目に見える。都市部であろうか。旧世界と違い随分と発達しているように思えた。風はどこまでも穏やかで暖かい。二人を歓迎するかのように一陣の風が吹くと、草原を波のように揺らめかせた。桐生は僅かばかりの悔恨と、果てなく広がる希望を抱きながら草原を見ていた。




────── 風が、頬をなでる。
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