第二話 〜始まる前のお話 後編【暁 Ver】
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りと『捻じ切られた』。こちらに来てから高度な『機械』を目にしたことがなかったので油断したようだった。
先ほど手首が吹き飛ばされた箇所へ恐る恐る手を触れてみるが何も起きない。どうやら正解だったようだ。ふと、彼女を見ると置物のように動かない。そんな姿を見て桐生は僅かに眉を寄せる。幾ら何でも感情の発露が少なすぎやしないだろうか、と。
「……あなたは、だれ」
「私の名は桐生と言います。あなたのお名前を教えていただけませんか?」
「……アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」
「なんとお呼びすれば?」
「……アスナ」
「わかりました。とても素敵なお名前ですね。あなたにとてもよく似合っています」
彼女……アスナは相変わらず表情を変えない。
「あ〜、私は魔法使いではなく『泥棒』です」
彼は自分でも唐突に何を言い出すのかと思ったが、一度紡ぎ出した言葉を止めることは出来なかった。普通に助けに来たと言えばいいではないかとも思う。仕方あるまい。このような小さな子供を相手にしたことなど姪ぐらいしか経験がなかったのだから。
桐生はこれでもかと悩み、ふと思いついた。少年時代──── 夢中になって見た、アニメーション。恐らく、『日本』で一番有名であろう『大泥棒』の台詞を。『悪』を『悪』だと理解した上で、自分の信念を貫くその姿は──── よっぽど英雄らしいと子供心に思ったものだ。桐生は暗い場所へ閉じ込められたお姫さまを助け出す泥棒の台詞を何とか思い出した。……自分には似合わないと思いながら。
「私はですね、『いい泥棒』なんですよ? アスナ」
「……いいドロボウ?」
「はい。いい泥棒のお仕事は悪い魔法使い達が、迷宮深くに閉じ込めたお姫様を盗み出す事です。そうやって閉じ込められた宝物をお日様の下へ返してあげるのが……いい泥棒のお仕事ですから。なので、どうか私に盗まれてやって頂けませんでしょうか?」
桐生は言ってから心の底から後悔した。現在は十代前半まで若返っているが、こう見えても彼は三十二歳まで生きたのだ。昔の自分が見たら噴飯物であろう。柄ではない事をするものではないと内心羞恥に染まっているとアスナの小さな右手が桐生の頬に触れた。雪のように真白な顔に浮かぶ『エメラルド』と『サファイア』が彼を見つめている。
「……はい」
桐生は気がつくとアスナを抱きしめていた。表情も変わらず、声の抑揚もなく。蚊の鳴くような小さな声ではあったが、彼には十分だった。久方ぶりに思い出す『命』の暖かさ。アスナにとっては人の温もり。思えばこちらの世界へ来て初めて『力』を使い誰かを助ける事が出来た。救われたのは彼女では無く──── 救われたのは桐生だった。
この後暫くの間、アスナが桐生を
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