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空を駆ける姫御子
第二話 〜始まる前のお話 後編【暁 Ver】
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身へ戻ると失われた上半身を再構成した。

 あの時の光景は忘れられない。何事もなかったように立ち上がった桐生を見て敵兵は悲鳴を上げて後退していった。私達でさえ暫くその場から動けなかったのだから。それと同時に私達は悟ったのだ。彼が人間ではないことに。

「そう言えば、詠春が妙なこと言ってたな」

「妙なこと、ですか?」

「あぁ、『化け猫』だとか何とか」

「桐生をですか? また、古風な」

「いや、詠春の話だと怪談に出てくるような化け猫とは違うらしい。何でも意志を持った『電子情報』なんだそうだ。身体全部が電子情報だから、『情報』ってヤツに直接ダメージを与えなきゃあっという間に復元するらしい。日本にはそれを専門に退治する組織があるらしくてな、なんて言ったっけ……何とか綜合警備とか言ってたな」

「俄には信じ難い話ですが……桐生の記憶は私のアーティファクトでも読めませんしね。桐生がそうだと?」

「いや、詠春も一度だけ見たことがあるってだけらしいからな」

 ナギはそう言いながら肩を竦めた。真偽の程は定かではないと言うことか。ナギの話が本当ならば一度見てみたい物だ。日本、ね。

「ま、どっちにしろあいつのことは放って置け」

「ナギは心配じゃないんですか」

「心配さ。だけど、さっきも言ったろ? ……遊びでやってるわけじゃないって」

 ナギはそれだけ言うと天幕から出て行った。ナギの言うことも一理ある。だが、精神的に追い詰められた人間は何をするかわからないものだ──── 願わくば、このまま何事もなく終わりを迎えられることを。






 大戦も末期に差し掛かり、きな臭い情報が『紅き翼』にも入ってくるようになった。『完全なる世界』を名乗る組織。この『大戦』自体がその組織によって故意に引き起こされた可能性がある。そして『黄昏の姫御子』と呼ばれる『完全魔法無効化能力』を持っているが為に、戦争利用されている少女。聞けば王族なのだという。

 桐生はやりきれなかった。敵も味方も死んでいった兵士が浮かばれない。戦争に巻き込まれ死んでいった無辜の民が救われない。戦争に幼い少女を平気で利用する連中も。それを黙ってみていた大人達も。誰も彼女を救おうとしなかった事も──── この世界へ来てから理不尽な事ばかりだ。

 数日後、桐生は『紅き翼』の前から姿を消した。






 王都オスティアにある『墓守人の宮殿』。気が滅入るほどの薄暗さと、カビの臭いに辟易しながら彼──── 桐生はその迷宮の終着点にいた。

「面倒だったので『直進』してきましたが、意外と時間がかかってしまいましたね」

 その部屋の祭壇─── にしては粗末ではあるが、そこに『彼女』はいた。蝋燭の明かりしか無い為に、くす
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