第一話 〜始まる前のお話 前編【暁 Ver】
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ことに気付かずに身の上を嘆く滑稽な姿を見るのが愉快だっただけの話だ。
「……そうですか。それでは転生のお話をしましょうか。私が転生する世界と……あぁ、能力も頂けるのでしたか。必要ない気もしますが、転生する世界次第ですね」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。あなた私の話を聞いてたの?」
「聞いてましたが? 私はあなたがした話の矛盾や疑問点を指摘しただけですよ。そもそも転生しないなんて一度も言っていません」
「あなたも……あんたも他の連中と一緒なわけ?」
「あなたに必要なのは友人や家族だと思いますね」
「……同情なら真っ平よ。羽虫と変わらない脆弱な生き物の癖に」
「桐生です」
「は?」
「私の名前ですよ。ご存じでしょう? 友人の第一歩は名前を知ることです、たぶんね」
「呆れた話だわ。友人や家族って価値観や倫理観が対等な立場だから成り立つのよ。それがなければ主従と変わらない」
「主従、ね。そんな可愛らしい姿で言われてもですね」
彼の目には私がどのような姿で見えているのか。私の容姿は見る者によって違う。私自身も『本当』の容姿を知らない。鏡を覗き込んだその姿でさえ、偽りなのだから。人間とはかけ離れた姿なのかも知れないし、そうではないのかも知れない。いずれにせよ今更それを考えるのは──── 詮無きことだ。
「名前」
「ん?」
「付けなさいよ、名前」
「まさか、名前がないんですか。……名前とはその人を現す大事な物だと思いますがね」
「集団で生活するあなた達にとっては、でしょう。人間だって必要のない『力』や習慣、文化なんか忘れていったじゃない」
「それは、まぁ。名前ですか……」
彼は暫く考え込んでいたが、やがて口を開く。
「妹夫婦に子供がいましてね。この姪っ子が凄く可愛いんですよ」
「黙れ」
「いや、話を最後まで聞いて下さい。妹の影響を受けたのか花が好きでしてね。花の名前や知識を覚える度に教えてくれたんですが……『lily of the valley』というのはどうでしょう」
「lily of the valley……鈴蘭?」
「そうです。白くて小さい可憐な花ですが……毒草でもあります。あなたに相応しいと思いますが」
そう言いながら彼は皮肉気に唇の端を持ち上げた。一言多いが悪くはない。
「少々長いので名乗る時は、lily……『リリー』でいいでしょう。どうで」
彼はそこまで言うと目を見開いて驚いている。何をそんなに驚いているのか。
「えぇっと……何故、姿が変わったんでしょうか」
彼の一言に一瞬だけ思考が停止した。変わった? 何が? 自分の姿が? 私は再起動を果たすと目の前に直ぐさま鏡を『創造』した
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