第一話 〜始まる前のお話 前編【暁 Ver】
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口、如何ですか?」
「いらないわ。食べなくても生きていけるし」
「え? それじゃ、その口と舌と歯は、何の為にあるんですか。飾りですか、それ」
コイツ、ムカつくわ。
「食事はコミュニケーションの手段でもあります」
彼は半分ほど平らげたカレー皿をスプーンと共に床へ置きながらそんな事を言い出した。随分と話が飛ぶものだ。
「コミュニケーション? 食事が?」
「気の置けない友人と一緒にする食事は楽しいですよ。昼休みも大抵は誰かと一緒でしたね。話ながら食事の仕方などを観察しても人となりがわかるものです。……一人は味気ないものですよ」
彼はそれだけ言うと残りのカレーをやっつける作業に戻った。今までそんなことを言われた経験もないし、思ったこともない。私のような同じ存在に会ったこともない。私は、『私』を認識した時には既に孤独だった。いや、違うか。それを孤独とすら思わなかったし、これからもないのだろう。集団を作らなければ生きていけない脆弱な生き物とは違うのだから。だが、目の前の彼は。それを。『味気ない』と称した。
『味気ない』とは、どんなことだろう。私は食事が必要ではなく、病にもかからない。老いることもない。知識はその都度学習する必要もない。私は成長しない。それどころか『死』すら、ない。対等な存在などなく。自分の『役目』を決められたロジックに従うプログラムのように。悠久の時を。永久に。終古の果てまで。未来永劫──── ただ、一人で。あぁ、なんてことだ。それは確かに……味気ない。『それ』に気付いてしまったが最後、もう戻ることは出来ない。だからと言って、私は『私』という存在を放棄することなど出来ない。
私は彼が食べ終わるのを待つことにした。『それ』に気付いてしまった責任をとって貰おう。彼は濡れ衣だと言うかも知れないが。話してみよう。私の『役割』と世界の『仕組み』を。あの『スカした』顔が驚きに変わるのを見れば多少なりとも溜飲が下がるだろうから。
『彼女』の口から語られた真実に私は少なからず驚いた。彼女の役割は世界と呼ぶ『箱庭』の調整──── バランサーだ。要するに人間の『間引き』。世界を恙なく維持する為の『作業』。世界を荒廃させない為に天災を。場合によっては人間を誘導した上で人災を引き起こし適度に間引く。間引いた人間の『魂』は他の世界へ振り分ける。そうすることにより世界の広さに対して人間の数を調整し、世界そのものの破滅を防ぐ。まるで、シミュレーションゲームだ。
彼女が私にやろうとした事も、その一環だと言う。選んだ人間を様々な要因で『死ぬ』ように運命と言う名の『パラメーター』を操作する。元の世界に転生させない理由も納得だ。間引く意味が無くなってしまう。そうして死んだ人間に転生を持ち
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