第一話 〜始まる前のお話 前編【暁 Ver】
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らない。それが、私の──── 存在意義だ。
「あなたには転生出来る権利があります」
私は彼の言葉を無視することに決めた。
「元の世界へ転生させる事は出来ませんが、あなたの世界でフィクションとして描かれている世界……漫画やアニメ、小説やゲームなどと言った世界へ転生させる事も可能です。勿論、あなたが望む様々な能力を与える事も可能。あなたがその世界に存在している『証』や『歴史』でさえ捏造可能です。あなたが望みさえすればあなたの『思い通り』に事が運ぶようにすることも吝かではありません」
どうですか? と、私は目の前の彼へ問うた。いつものように。浮かべている『笑顔』も完璧な筈だ。──── だが、その人間は。
「……なぜ、私が生きていた『元の世界』ではいけないんですか?」
「あなたが生きていた世界では、もうあなたは死んでいることになっていますから。肉体も既にありません」
「何を隠しているんです?」
彼は吸い殻を携帯灰皿へ押し込むと、私へと真っ直ぐに視線を合わせる。
「二つほど疑問に感じたことが。私が元の世界へ『戻る』事が出来ない理由が、明確ではないんですね。あなたは私が既に死んでいるからと言いました。それはそうでしょうね。死んだ人間が況してや火葬済の人間が生き返ったらパニックでしょうし。……ですが、あなたはこうも言いました。「あなたがその世界に存在している『証』や『歴史』でさえ捏造可能です」と。これをなぜ、元の世界でやらないのかと言うのが一つ」
彼はそこまで言うと乾いた唇を濡らすように『缶コーヒー』へと口を付けた。……あんな物まであったのか。恐らく生前からよく飲んでいたのだろう。
「二つ目は、あなたは不手際と仰いましたが……私を生き返らせてくれた時点で『対価』としては成立してるんですよ。だと言うのに、能力や生きていく為に必要な物。更には私の思い通りになるとまで。お詫びと称するには些かサービスが良すぎますね。疑問に思わない方がおかしいです。あなたは──── 私に何をさせたいんですか」
私が舌に乗せた言葉の矛盾や疑問点を的確に突いてくる。今までこんな人間はいなかった。どんな人間も例外なく、到底持ち得ない『力』を望んで転生していったというのに。大きな『力』を持つ意味と、責任の重さなど欠片ほど考えずにだ。何とかこの状況を打開する手を考えようとして……煙草とは違う香りを感じた。思わず、顔を上げた私の視界に入ってきた光景は。コイツ──── カレー食ってやがる。
「何故か、鞄の中に入ってまして。その所為で鞄の中が大変なことに」
「知らないわよ」
「あれ? 先ほどまでと雰囲気とか話し方とか変わってませんか」
「五月蠅いわね、これが『素』なのよ」
「はぁ、そうなんですか。……一
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