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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第十八話「小悪魔な彼女」
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すわ」


「ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ弄ばれてみたい、とか……? ほんのちょっとだけなんだからねっ」


「そ、そうね。力づくでこられたら逆らえないわよね……ゴクリ」


「ダメよ! あいつは魔王なんだから!」


「魔王……」


「夜の魔王……」


 そんな乙女のざわめきがかすかに聞こえてくる。


 これは、だめだ。精神的によろしくない。


 ――というか、夜の魔王ってなんだ?


 そして、ちょっと格好いいかもと思ってしまった俺はなんだ。これが前世の友、ロンがよく口にしていた『中二病』というやつなのだろうか?


 しかし、ここ最近少女たちの怯えるような目に混ざってなにやら熱い視線を感じる。


 あと、なぜだか靴箱に可愛らしいリボンつきの手紙や手造りお菓子などが見られるようになった。


 いたずらにしては悪意よりむしろ好意が窺えるし、だからといってこんな精神年齢もうすぐ三十の中身オッサンが好かれるとは思えない。


 ――いったい、俺の周囲で何が起こっているんだ……。


 おっと、思考が脱線した。なんにせよ、この心臓に悪い視線をどうにかしなければ。


「というわけで、離してもらえるとありがたいのだが」


「なにがというわけなのか分からないけど」


 大人しく解放してくれる君がお兄さん好きだ。


「それにしても、クーってモテモテのようね」


「ただ単に男の精霊使いが珍しいのだろう。そうでなくても女学院に男が一人だからな」


「本当にそうかしら?」


「――っ!」


 唐突にフィアは俺の手を取ると腕をからめてきた。


 俗にいう『腕を組む』という行為だ。女性特有の柔らかな感覚が触覚を刺激してくる。


 外野のざわめきが大きくなった。

「……フィアナさん、これはなんの真似かな?」


 胸が当たっているのは分かっているだろうに、彼女は面白いものを見つけたとでもいうように小悪魔の微笑みを浮かべた。


「久しぶりに再会した友達がつれない素振りなんだもの。それとも――」


 背伸びして耳打ちしてくる。


「はしたないお姫様はお嫌いかしら?」


 背伸びしたため胸元が近づいてきた。隙間から扇情的な黒の下着がチラッと覗いている。


 廊下をすれ違う生徒たちの視線が心なしか鋭くなっている気がした。


「ふふっ、みんな妬いてるみたい」


 くすっと楽しげにこちらを見上げるフィア。そんな彼女に俺は重い溜息をついた。


 するっと腕を引き抜き、手を手刀の形にすると脳天目掛けて振り下ろす。


「きゃっ」



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