1年目
秋
秋B〜星に願いを 君には音を〜
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からの3年間、俺の頭の中はギター一色だった。
―――高校に上がるのをきっかけに、愛華は東京へと戻っていった。
そして今からちょうど1年前、そんな愛華から再び連絡があったのだ。そのメールには一言“東京でバンドをやらないか”とだけ書いてあった。愛華はまだ夢に向かって走っている。そんな姿を想像して、俺も自分の夢を追いかけたいと思えたのだ。愛華は俺にギターを弾くことの楽しさを、バンドを通してみんなで音を奏でることの素晴らしさを教えてくれた恩人に他ならなかった。
だからこそ、驚いた。愛華が医者になろうとしていたことを知った時は。東京に来て、久々に会った愛華の姿は、化粧が濃くなり、ピアスも開いていたが、俺に向ける笑顔だけは当時の面影のままだった。しかし、その目はどこか俺を見つめていないように思えた。
大学を卒業すれば医者になる。そう話されたのもその時だ。俺はてっきり一緒に夢を追うものだと思っていたため、声を張り上げた。その声に愛華は一言“すまん”とだけ答えた。そして、間をおいて、“最後にもう一度だけ拓海とバンドがしたかった”と零した。それを聞いた瞬間、俺は何も言えなくなってしまった。
愛華と一緒に音楽ができなくなるのは寂しいが、家庭の事情となると俺が口を挟むことなどできないと思えたからだ。“勝手にしろ! お前が将来医者になろうが、俺は一人でもバンドを続けるからな!”と、喫茶店の机を叩きながら声を荒げてしまったことは、いまだに後悔している。その言葉に愛華は俯きながら、何度も“すまん”と呟いていた。
そうして、当時のことを一つ一つ折り重ねるように思い出すことに気を取られ、道行く人と肩がぶつかってしまった。
「ボーっと突っ立ってんじゃねぇ!」
その言葉にハッと我に返り、既に人混みに消えてしまったその背中へ向け“すみません”と頭を下げる。
「なんだ、あいつ、ガラわりぃなぁ」
それはお前が言えたことじゃないだろと苦笑いを浮かべると、愛華は再び、うっせぇ、と俺の背中を叩いた。
「そんじゃ、あたし今急いでるから! またな!」
愛華はそう言うとバッグを肩にかけ直し駆け出す準備をする。
「ん? どこか行くのか?」
「あぁ、これからボイトレのスクールに……」
そこまで言ったところで、愛華はしまったという表情を見せ、“何でもねぇよ!”と言葉を濁す。そして、じゃあな、と手を振りながら俺に背を向けた。
俺はその言葉を聞いて胸が苦しくなった。
―――夢諦めきれてねぇじゃねぇか……
やっぱり俺は愛華と一緒に音楽を続けたい。
そう改めて強く思いながら、走り去るその後ろ姿を目で見送った。
視線を街に戻すと、デパートに次々と小さな電球
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