1年目
秋
秋B〜星に願いを 君には音を〜
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―――20××年 11月
冬眠でもする熊のようによくご飯を食べるようになったさちによって生活費により余裕がなくなってきた俺は、バイトの量を増やす他なくなっていた。
「おねがいしまーす」
日が暮れるのも早くなったなぁ、とポケットティッシュを配りながら宙を仰ぐ。
あたりは暗くなっているにもかかわらず、普通ならば空に煌めいているはずの存在はどこにも見あたらない。
田舎に居たころはあんなに満天の星空が広がっていたのに……
この街では灯りと言えば街頭やネオンのことであり、自然が織り成すささやかな光のことなど忘れ去られているかのようだった。
「おぉ、寒っ……」
風が顔を通り抜け、その鋭く刺すような寒さに身を縮込める。
今夜は鍋にしようかな。
そんなことを考えながら段ボールの中に入ったティッシュの山からいくつか掴み上げ、今までと同じ作業を繰り返していく。
「おねがいしまーす」
「ん…? 拓海?」
そのティッシュを手渡した相手はよく見る顔だった。
「なんだ、愛華か。」
「なんだとは失礼なやつだな。今日も精が出るね! ご苦労さん!」
そう言いながら愛華は俺の背中をバシバシと叩いた。
叩かれた部分からは、じんわりとあたたかな痛みが広がっていく。
「痛ってぇなぁ。ところでこんなところで何してんだよ?」
「あたしか? 見てわからねぇ? 学校の帰りだよ」
相当重いであろう、参考書がびっしりと入ったトートバッグが肩に下げられている。
お前もちゃんと勉強なんかするんだな、と茶化すと、優等生なんだぞ、とふんぞり返りながら答えた。
「これでもきっちり親の跡を継ごうって思ってんだ。無粋な真似なんてできねぇよ」
あぁ、そうだったな、と思い出す。
愛華の家は施設も大きく腕もいいと、この辺りでは評判の病院だ。俺も風邪でぶっ倒れた時はお世話になったものだ。
「それでも将来的にお前にだけは診られたくないな。誤診なんてされたらたまったもんじゃない」
そう言ってひらひらと手を動かすと、愛華は、うるせぇよ、ともう一度俺の背中に痛みをを与えた。
……それでも、俺は知っている。
―――愛華がずっと歌手になりたかったということを。
愛華とは小さなころからの知り合いだ。まだ俺たちが幼かったころ、親の仕事の関係から、うちの田舎に住んでいる愛華の祖父母のもとに預けられていたのだ。その当時から愛華はとても歌が上手く、合唱コンクールでは率先して周りを引っ張っていっていた。中学生になると、そんな愛華に誘われるまま軽音部へと入部し、そして、俺はギターと出会った。初めて触れるその重量感と空間を切り裂くようなサウンドに俺は心を躍らせた。それ
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