第二部 文化祭
第47話 既
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えているだろうから仕方ないのか、敏捷に優れた和人を全力で追い掛けた先生の息は既にあがっている。切れ切れの掠れ声で、某国語教師がまりあに訊ねる。
「桜! 桐ヶ谷を見なかったか!?」
苗字を呼ばれ、訊ねられたまりあは図書室の方向を指し、返事した。
「あっちに行ったって言っといてくれ、って桐ヶ谷くんが言ってました」
「なんだと!? 桜、ありがとな!」
先生は和人の進んだ廊下を追い掛けていった。
わあああァァァァ──という和人の悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいだろう。
***
「ひどいよまりあ……」
「初等部の方々に迷惑かけておいて何言ってるんですか」
あの後和人は、あろうことか初等部の校舎に乱入し、大暴れして逃げ回ったらしい。
「……で、結局キリトは何をしでかしたのですか」
「委員会の仕事をすっかり忘れてました」
「えっ……何委員なんですか?」
「……笑うなよ」
和人は、ボソッと言った。
「……栽培委員」
思わぬ返答に、まりあは吹き出した。だって、あの和人が栽培だなんて。
「悪かったな、俺だって栽培くらいできるぜ」
「ふふ、そうみたいですね。……でも、キリト」
「ん?」
「なにも、逃げることはないんじゃないですか?」
「逃げた方が面白いだろ?」
平然と言ってのける和人。まりあは嘆息した。
明日奈の恋を応援する。そう、決めたはずだった。しかし、その決意は早くも揺らぎ始めたようで。
──やっぱり私、あなたのことが
その先まで全て伝えたいけれど、絶対に言えない。だってそれは、明日奈を裏切るということになってしまうから。
しかしこの場合、まりあ自身の気持ちはどうなるというのだろう。素直に明日奈を応援するというのは、自分を裏切るということでもある──そうだ、明日奈は関係ない。自分の気持ちを裏切ってまで、明日奈を応援するなんてできない。
だから。
「ねえ、キリト」
か細い声で呼ぶと、和人は無言でまりあの眼を真っ直ぐに射た。
「私……私、キリトのことが」
言い掛けた、その時だった。
「キリトくーん!」
明日奈のソプラノ声が飛んできた。明日奈は和人の隣へ直ぐ様駆け寄り、彼の肩に片手を置いた。
「キリト君! 捜したんだからねー」
「はは、すまんすまん」
「わたしとの待ち合わせ時間、10分過ぎてるよ。ずっと? 《街》の噴水前で待ってたのにー」
「だ、だから悪かったって」
まりあは、何故だか嫌な予感がした。だって、二人の仲が、あまりにも良すぎる。
──まさか。
「もう。自分から誘ったデートをすっぽかすって、どうい
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