第五十六話 中華街その七
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「そしてその時は」
「戦うか」
「その状況であれば」
「その時は勝たせてもらう」
加藤は己の道からスペンサーに顔をやって言った。
「是非な」
「そうですか」
「ああ、絶対にな」
「私もです。しかしお互いにですね」
「嫌い合っても憎しみ合ってもいない相手と戦うことはか」
「軍人の仕事です、そして任務ですので」
割り切ってはいるというのだった。
「そうさせてもらいます」
「俺は戦いたいだけだ」
加藤の場合はそうだ、このことはあくまで変わらない。
「嫌いだの憎いだの最初から意識していない」
「戦うだけですか」
「それだけだ」
この考えは不変だった、彼にとっては。
「だからだ。ではだ」
「はい、では」
二人はそれぞれの道を進み別れた、スペンサーは地下鉄を使ってそのうえで領事館に戻った。そこで領事館のスタッフからこんな話を聞いた。
「共和党が不利ですか」
「はい、大統領もです」
「危ういですか」
「再選は難しいかと」
若いアジア系と思われるスタッフが話す」
「そして上下両院共です」
「民主党が勝ちますか」
「そのことが予想されます」
「先月まで共和党有利でしたが」
「共和党の議員に失言が続いていますね」
スタッフはこのことを言った。
「それが響き経済状況も」
「失業率の増加ですか」
「はい、それが影響しまして」
それでだというのだ。
「大統領も両院も危うくなっています」
「では次の選挙は」
「まだどうなるかわかりませんが」
それでもだというのだ。
「このままではです」
「政権交代ですか」
「それに伴い人事の異動も予想されます」
「外交の場においても」
そして軍事の場においてもだった。
「かなり変わるかも知れませんね」
「今の大統領は積極的ですが」
ここ十五年辺りのアメリカ共和党の外交政策をそのまま踏襲したものだというのだ。
「それも大きく変わるかも知れません」
「ですか」
「私も異動、若しくはリストラかも知れませんね」
アメリカでは官僚の首は結構簡単に切られたりもする。伝統的にスポイルズシステム、大統領が高官を自分の部下やブレーンから任命するシステムの国なのでそうしたことも日本と比べると多くなる傾向が強いのだ。
「そうなったら再就職先を探さなければ」
「国務省も大変ですね」
「スーツで戦う場所ですよ」
それがアメリカ国務省だというのだ。
「結果を残さなければ」
「戦死ではなくですね」
「リストラです」
アジア系のスタッフは軽い笑顔で深刻な話を言う。
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