1年目
夏
夏B〜世界中のだれよりもきっと〜
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ドタバタと狭い部屋の中を駆け回る。
まるで檻に入れられたペットショップの子犬のように。
「さち!!!!!」
風呂場、トイレ、クローゼット、いないと分かっていながらも台所の棚の中まで探す。
そうだ、壁の中にいるんだろ?もうかくれんぼは終わりにしよう?隠れたって無駄だぞ。
そう思いながら壁を叩いてみる。それに呼応するかのように壁を叩き返す音が聞こえた。
―――さち!?!?
「うるせぇよ!!夜中にドタバタしてんじゃねえ!!!」
その声は隣の部屋から聞こえてくる。俺が五月蠅くしてしまったせいで苦情を言われただけのようだ。
ポツリと、あふれ出るかの如く「彼女」の名前を呟く。
…一体どうして俺は「彼女」を忘れてしまっていたのだろう。
そこにいるのが当たり前となっていたせいなのか、はたまた、母親に叱られれた小さな子供のように、口うるさく言う存在に対して“いなくなってしまえばいい”と心のどこかで思ってしまったからなのだろうか。
今となってはその原因すらわからなかった。
「出てこないと電気消すからな!? いつまでも隠れてようが、知らないからな!」
さちの返事の代わりに、隣からダンッ! と壁を殴る音が一つだけ。
「なんだよ…」
とはいえ、怒鳴る気にもならず、俺は床に座り込んだ。
少し意地悪をしてでも「彼女」の姿をもう一度見たいと思っている自分がいた。
“大切なものは無くなってからその価値に気付く”。
そんな言葉がふと浮かび、心臓がチクリと痛んだ。
俺は電気へと手を伸ばし、段々と部屋を暗くしていく。しかし、その最後の灯りを消すことに戸惑ってしまった。部屋を暗くして寝るのが当たり前なはずだったのに、今日だけはどこか闇が迫ってきてしまうことに恐怖を覚える。
そして、一息つくと、カチン、と部屋を暗闇へと変えた。
そして、しばらくそのままさちが現れるのを待った。
窓の外からは不安を煽るかのようにフクロウの声が聞こえてくる。そんな不安と恐怖心を紛らわすため、俺は頭から布団をかぶる。
……そうしているうちに俺はいつの間にか寝てしまっていた。
―――結局、朝になっても「彼女」の姿は見当たらなかった。
俺はガックリとその肩を落とす。
なんでいなくなっちゃったんだよ…。
幽霊を見たくない人はたくさんいると思うが、幽霊に会いたいと思うのは相当な物好きか狂人でしかないだろう。
…いつの間にか俺は狂ってしまってたのかな。
そう思い、苦笑いが零れる。
そんな時、ふと「彼女」が言っていた言葉を思い出した。
―――私たち幽霊ってのは“人間から認識”されることでその姿を保てるのよ。
「彼女」の話を聞いた時に
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