1年目
夏
夏B〜世界中のだれよりもきっと〜
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感じた違和感はこれだったのか。
そう自分の中で納得した。
人から認識されることで存在できるとするならば、人から忘れ去られてしまったらその存在はどうなってしまうのだろうか。そんなこと、今更考えなくてもわかる。
―――「彼女」は今、俺にしか見えないはずだ。
自分でもそう思っていたじゃないか。
「くそっ…!!!!」
俺はそばにあったクッションへ拳を叩きつけ、そのままうつ伏せになった。
もう会えないのだろうか…。
そんなことを考え、自然と涙が溢れそうになる。その時だった。
―――がたん。
何か玄関の方から音が聞こえた。これは郵便受けの音だろうか。そして、
―――幽霊さん、いますかー?
そんな幼い声が耳に飛び込んできた。先ほどの郵便受けの音は、この子供が覗いた音だったのだろう。以前「彼女」が言っていたことをつい真似して“はーい”と答えてみる。
―――うわぁ!出た!!!
そんな声と共にバタバタと走り去っていく音が聞こえてくる。その様子に先ほどまで落ち込んでいたのを忘れてフッと笑みがこぼれてしまう。そしてその時、頭の中を一つの言葉が駆け巡った。
―――私は近所の子供たちが、あそこは幽霊部屋だ、って言ってくれてたから存在できた、って感じなのかな
…これだ。
人から認識されていなくて姿を保てないなら、また人から認識されるようになればいい。
俺は急いで服を着替えると寝癖頭のまま部屋を飛び出した。
俺の足は近所の公園へと向かっていた。俺が東京で最初に訪れたあの公園だ。
この暑い日中にも関わらず、案の定、そこには元気に遊ぶ子供たちの姿があった。
よし、と気合を入れ、一人ひとりに話しかけていく。
「君、この辺にある幽霊部屋、って知ってるかな?」
「しらなーい。てか、おじさん、誰?」
おじさんと言われ、俺の眉はヒクッと動いた。
だが、思った通り今の子供たちには幽霊部屋の存在は忘れ去られているようだ。俺は意気込みながら幽霊部屋の話をしていく。
一人の女の子は、えー、怖い、と話をそらし、ガキ大将らしさのある少し小太りな男の子は、みんなで肝試しに行こうぜ、と張り切っているようだった。
そして、一通り公園で遊ぶ子供に話しかけた時、
「あそこです!不審者!」
そう言って指差してくる若い母親と、そのそばに立つ警察官の姿が見えた。
俺は悪いことはしていないと自分では分かっていながらも、とっさに走って逃げてしまった。後ろからは、ちょっと!君!、と呼びとめられる声が聞こえたが、お構いなしに全力疾走で公園を駆け抜けた。
子供に話しかけるだけで不審者扱いとは、日本もそれだけ物騒になってしまったということなのだろうか。
でもこれ
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