第百四十三話 一乗谷攻めその六
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「御主達が探すのは忍びないであろう」
「それは」
「その」
彼等もそのことはだった、やはりどんな者でも彼の主だった者だ。それで彼等が率先して義景を探し出すことはどうしっても憚れた。
その彼等の気持ちを踏んでだ、信長は彼等に言ったのだ。
「わしが探す、御主達は何もするな」
「わかりました、それでは」
「我等は」
「ではじゃ、久助」
忍を動かす滝川に顔を向けて告げた。織田家の主な諸将もその場に集まっているのだ。
それでだ、その中にいる滝川に告げたのである。
「すぐに忍の者を使って探し出せ、よいな」
「畏まりました、それでは」
滝川はすぐに応えその場から姿を消した、信長は暫し諸将と共に一乗谷城に留まった、その二日後だった。
滝川が信長の前に戻って来た、そのうえでこう彼に言った。
「義景殿ですが」
「見つかったな」
「その正室殿と跡継ぎの方も」
「そしてこの城に連れて来たか」
「はい」
「それで義景殿は何処におったのじゃ」
信長はその場から滝川に問うた。
「越前の中におったな」
「はい、そうです」
「そうか、やはりな」
「山田庄に潜んでおられました」
越前のそこにだというのだ。
「どうも。大名らしからぬ」
「隠れておられたか」
「そうです」
「わかった」
ここまで聞いてだ、信長は言った。
「それで捕らえたのであるな」
「眠らせてから」
そうしたというのだ。
「それでどうされますか」
「別によい」
これが信長の返事だった。
「ではな」
「会われませぬか」
「仏門に入るか切腹をお勧めせよ」
これが信長の義景への断だった。
「それでよいわ」
「では」
「会うこともない」
吐き捨てる様な言葉だった、まさに。
「生きたいのならそうさせよ」
「殿、お言葉ですが」
滝川は信長にあえて厳しいことを言うことにした、そのうえでの言葉だった。
「最後まで歯向かった家の主です、ですから」
「ここは消すべきだというのじゃな」
「はい、そう思いますが」
「並の者ならな」
それならばだ、信長も無理にでも腹を切らせていたというのだ。だが義景はというと。
「宗滴殿は違う」
「腑抜けだと申されますか」
「その通りよ、だからな」
義景はそのままでいいというのだ。
「仏門をお勧めせよ」
「では」
「妻と子もじゃ」
義景のその者達もだというのだ。
「別によい、跡継ぎも仏門に入れてじゃ」
「それで済ますと」
「それでよいわ、後はな」
義景とその妻と子のことを決めてからだった、義景はこうも言った。
「この越前のことじゃが」
「はい、どうされますか」
「前波吉継に任せる」
その者にだというのだ。
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