1年目
夏
夏A〜「彼女」の姿は蜃気楼と共に〜
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薄暗い部屋の中ではけたたましい音が飛び交う。
その唯一光が照らしだす先に俺は立っていた。
「みんな!今日は来てくれて本当にありがとう!!サンキュー!!」
そう言い放ち、肩からぶら下がった愛機へと向け、腕を振り下ろしていく。
ジャーン、という音と共に先ほどまではあれだけ音で溢れていた部屋が静かになる。
そして、少し間をおいた後、数十人のどこか投げやりな乾いた拍手の音が鳴り響いた。
ライブが終わり、楽屋で俺たちは雑談に花を咲かせていた。
……と言ってももっぱらは今日のライブに関することなのだが。
今日の演奏が上手くいった事に上機嫌な俺はついつい、崇拝しているロックバンド“Deep Purple(ディープ・パープル)”の楽曲である“Burn”を口ずさんでしまう。この勢いのあるロックサウンドが今の気分にはピッタリだった。
「いやー、今日は上手くいったな!俺の最後のギターソロ完璧だっただろ!?」
そんな俺の言葉に愛華は首を捻り、眉をしかめる。
「そう?若干リズムは走ってたし、5弦の音が8分の1外れてた。ちゃんとチューニングした?それに、“サンキュー!”はダサい。」
ダサい、と言われ、うぐっ…、と口ごもりながらも、チューニングはちゃんとしたさ!、と反論し、チューナーで音の確認をする。
本当だ。少しズレてる…。
「まぁ、でも拓海にしては良かったんじゃない? これからも精進しろよ!」
そう言って愛華はロックとはかけ離れた“花*花”の綺麗なメロディーを口ずさんだ。
そんな愛華の言葉に残りのメンバーも、うんうん、と首を振る。
お前らだって人のことは言えないだろ……。
そんなことを言ってやろうと口を開きかけた時、そのうちの一人であるキツネ目のキャップ姿が、そういえば、と俺の言葉を遮るようにして話し始めた。
「今日、某音楽事務所のプロのスカウトの人が来てた、って噂だよ。まぁ、噂に過ぎないけど。でも僕は一番奥にいたおっさんがそうだと思うな。あれはただものじゃない気配がしたぜ…。」
お前の勘は当たったことがないだろう。
かく言うこいつは、道案内させると勘で突き進み、迷ってしまうことなど日常茶飯事だからだ。このコンクリートジャングルで何度遭難しかけたかわかったものじゃない。
…それでもスカウトか。
今回だけは、こいつの勘が当たっていて欲しい、そう願わずにはいられずにいた。
もし、スカウトされれば、即刻メジャーデビュー。1枚目のシングルで名前を売り出し、3枚目くらいで堂々のオリコン1位。ついには、紅白歌合戦や、夢にまで見た満員の武道館ライブ…。
「拓海、お前何ニヤニヤしてんだよ…。」
そこで急に我に返る。自分ではニヤけ
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