暁 〜小説投稿サイト〜
悪霊と付き合って3年が経ったので結婚を考えてます
1年目

夏A〜「彼女」の姿は蜃気楼と共に〜
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ていたことに気づいていなかった。急に恥ずかしくなり、ニヤニヤなんてしてねぇよ!、と返すが、その時にはもう遅かった。既に他のメンバーにも言いふらされ、その日一日、みんなからは“ニヤリスト”という不名誉なあだ名で呼ばれることとなってしまった…。











―――最近の俺は毎日が楽しくて仕方なかった。

東京での生活も慣れ、少ないながらもライブハウスで演奏する機会も増えてきた。そして、そこでできた仲間と共に過ごす時間も多くなり、そのうちの一人の家にみんなで集まっては朝まで飲み明かすことが普通になっていた。
自分の部屋へ帰る時は大体がバイトの夜勤明け。シャワーを浴び、寝ることだけが俺の家の存在理由。そして、次の日も基本はバイトかバンド練習。時間ギリギリまで寝て、起きるとすぐに着替えて外へと飛び出す。これが今の暮らしだった。
ギターとバイト。
それだけしか考えられず、後のことなどスッパリ忘れてしまっている自分がいた。

―――大事な何かも。

「ところでさ、うちばっかりに集まるんじゃなくて今度は別の家で飲もうよ。最近、騒ぎ過ぎだ、って隣の人から苦情来てさ…。」

「でも、どこに集まるんだよ。お前んち、スタジオからすぐ近くだし、他にいい場所なんてないだろ?」

「そうだ!拓海んちがあるじゃん!スタジオからはちょっと遠くはなるけど、駅からめっちゃ近いしさ!僕も今の家追い出されたくないんだよ!」

そう言いながら、この通り!、と俺を拝んでくる。
俺は神様、仏様か、っての…。

「いや、うちは…」

そう言いかけてハッとする。
「彼女」ときちんと話したのはいつが最後だろう。
幽霊ともあり、元々存在感は極端に薄かったが、そんなもんじゃない。言葉の通り、俺は「彼女」のことなど頭から忘れてしまっていたのだ。
なんだか嫌な予感がする…。
妙な胸騒ぎを覚えて、俺はいてもたってもいられなくなっていた。

「わるい!ちょっと用事あったの思い出した!俺、今日は帰るわ!」

俺はそう言い放つと座っていた椅子が吹っ飛んでしまうほどの勢いで立ち上がる。

「っちょ、拓海!?」

その姿にメンバーたちは驚いた表情を見せ俺の方を見つめてきた。
だが、そんなものに構っている暇などない。
宅飲みの件、考えといてくれよー!、と後方から呼びかけられたが、振り返りもせず背中越しに手を振ると、俺は楽屋の扉を開け放ち、一目散に家へと向かった。













「さち!!!!」

家へとたどり着くと、俺は大声で「彼女」の名前を呼びながら玄関の扉を開け放った。
部屋の中に(こも)っていたムワッとした熱気を肌に感じる。

…そこは、既に幽霊部屋ではなくなっていた。


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