1年目
夏
夏@〜蝉の声を引き連れて〜
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―――暑い…。
空には雲ひとつないまさに快晴。天から降り注ぐ日差しはジリジリと肌を焦がしていく。
どうしてこんな日にライブ会場の警備のバイトなんて入れてしまったのだろうか…。
今月がピンチだったのもあり、自給の良かったバイトをホイホイ選んでしまったのが間違いだった。そして、あわよくば、会場内の警備ならタダで見られると思っていたのだが、人生はそんなに甘くはない。
「はーい、押さないでくださいー。入場チケットのご用意をお願いしますー。」
くっそ…、いいな。俺もこのライブ見たかったんだよなぁ…。
このグループのギターの速弾きは本当に神懸かってる。
―――早く俺もこんな場所で弾いてみたいな…。
そんなことを考えているうちに、時計はそろそろ休憩の時間を告げていた。
…よくやく休める。
そう思い、ホッと胸を撫で下ろして、ガラガラになった声を振り絞り呼び掛けを続ける。
そんな時、青い制服姿の警備のバイトの責任者が俺を見つけ、速足で近づいてくるのが見えた。
やっと交代だ…。
「申し訳ない。交代時間だったんだがもう一人のバイトが体調不良で帰ってしまってな。すまんが、あと2時間ほどここの警備に当たってもらえるか?」
―――そりゃないよ…。
俺と愛華はバンドメンバーでよく行く駅前の安い居酒屋で今日のバイトの打ち上げをしていた。
店の中は、まだスーツに“着られている”ような若いサラリーマンや、ろくに勉強もしていないのであろう髪の毛の派手な大学生たちでガヤガヤと賑わっている。
「あっはっは!!それはそれは、ご愁傷さまだ!!あんたも人がいいねぇ。そんなの断っとけばいいのに!」
そう言いながら、目の前の友人は、ぷはーっと景気よく酒を飲み干していく。
「うるせぇなぁ!今月ピンチだったんだよ。少しでも働いた方がいいだろ!?」
「でも、このバイト、日給制じゃなかったか?いくら働いても値段は変わらないだろ?」
あっ…、と声が漏れ、テーブルへと肩から崩れ落ちた。
確かに、俺は人がいいみたいだ…。
そして俺たちの後ろの席に座っている、顔を真っ赤にして酔っぱらったおじさんから“兄ちゃんも苦労してるねぇ”と声を掛けられる。
その様子見た愛華はケラケラと俺を指差して笑っていた。
「ところで、愛華はどこの警備だったんだよ。このバイト誘ったのお前なのに、途中から姿を全然見かけなかったぞ?」
「あぁ、あたし?あたしは会場内よ!はぁ…、あのピンと張った高音、大胆な歌い回しの中にある繊細なビブラート…。もう最高…。」
はぁ!?と声を荒げてしまった。
こっちは暑い中会場外の警備だったってのに、こいつは会場内で楽しんでやがったのか。
そんなことにイ
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