第一話 邂逅
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う。兵卒上がりにはこれで十分というわけだ。適当に座れ」
取りあえず置いてあった椅子に座った。
「抗議しないのか?」
「抗議などすれば奴らを喜ばせるだけだ。せっかく用意してやったのに気に入らないらしいとな。それに俺は自分の旗艦に戻ればちゃんとした部屋が有る、ここを使ったのは今日が初めてだ」
そう言うとリュッケルトも椅子に座った。
不当だと思った。抗議するべきだと思った。だがリュッケルトは気にしていないらしい。
「お前達、昇進で不当な扱いを受けた事が有るか?」
「その、お前と言うのは止めてくれないか」
「気にするな、お前達も俺の事を好きに呼べばいい。それで五分だ」
どうにも困った男だ。さっきから全然調子が出ない。
「じゃあ、……爺さんと呼ぶぞ」
年寄り扱いしてやる、嫌がるだろうと思ったが奴は頷いた。
「良いぜ、気に入らなきゃクソ爺とでも呼ぶんだな。俺もお前らの事を気に入らない時は小僧と呼ぶ」
駄目だ、益々奴のペースだ。
「それでさっきの質問だ、昇進で不当な扱いを受けた事が有るか?」
「いや、俺は無いと思う、キルヒアイス、お前は?」
気が付けば俺と言っていた……。
「私も有りません」
「そうか、そうだろうな……」
爺さんは一人で頷いている。
「爺さんは有るのか?」
「嫌になるほどな、有る。兵卒上がりだ、後ろ盾は無い。武勲なんぞ横取りしたってどこからも苦情は出ない。俺が何か文句を言えば異動させるだけだ」
落ち着いた口調だ、悔しそうなそぶりなど毛ほども見せない。本当にそんな事が有ったのだろうか、そう思った。キルヒアイスも不思議そうな表情をしている。
「兵卒上がりの大佐が准将に昇進する時には適性試験を受ける事になっている。知っているか?」
爺さんの質問に俺とキルヒアイスは頷いた。
「確か筆記試験と口述試験が有ると思ったが……」
「そうだ。正確には武勲を上げ上司の推薦状が必要だ。そして人事局がそれを認めて適性試験になる。容易じゃないよな、武勲を上げるのも大変だが推薦状だって小さな武勲じゃ貰えない。俺は四度目で適性試験に合格した」
「……」
「どう思う? 正直に言え、遠慮するなよ」
「……いや、苦労したのだな、と思った」
俺が答えると爺さんは笑い出した。
「お前は官僚か? 役人みたいな答えだな。遠慮せずに言えと言ったはずだぜ」
「……」
「小僧、お前は幼年学校首席で卒業だろう? 頭の悪い奴、そう思ったんじゃないのか?」
「……いや、まあ、少しは」
俺が口籠りながら答えると爺さんがまた笑い声を上げた。参ったな、小僧と呼ばれても反発できない。
「適性試験はな、一回じゃ合格しないように出来てる。三回目で合格だ」
えっと思った。俺だけじゃない、キルヒアイスも驚いている。
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