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深き者
第三十六章
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みを浮かべて述べたのだった。
「何もね」
「というとだ。その球はか」
「ええ。目くらましですよ」
 それだというのである。
「これはね」
「それか、目くらましか」
「はい、それも只の目くらましじゃありませんよ」
 彼は楽しげな声で役に話すのだった。
「これはね」
「というとどうしたものだ?その目くらましは」
「普通の目くらましはただ墨とかで見えなくしますよね」
「そうだな」
「これはちょっと違うんですよ」
 その楽しげな言葉が続く。
「いえ、ちょっと以上にですかね」
「ではどういうものなのだ?」
「ああいうのですよ」
 見るとだった。そこにあったのは墨ではなかった。それは本郷に言う通りである。
 そして何かというとである。黒い無数の細長い紙片がそこに舞っていた。それで以って邪神の視界を阻んでいるのだった。
「紙でね」
「紙か」
「暗くなっても見える奴は見えますから」
 そうだというのだった。実際に夜行性の動物は夜であってもそこにあるものを見ることができる。彼は既にそれを考えていたというのだ。

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