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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
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ァン!という乾いた音が遅れて鼓膜を震わせる。
頬を張られた、と認識したのは、それよりも更に後だった。
目を見開き、なすすべもなく地面にべしゃっと倒れた。しかし、胸倉を細くて白い手にむんずと掴まれて、すぐに上半身だけ起き上がらせられる。
間近で見るカグラの目は、轟々と猛り狂った焔が爛々と輝いていた。
「………恥、ですって?」
「う、うん……」
乱暴に胸倉を揺らされる。ぐらぐらと首が危なっかしく前後に振られる。
「ッ!どうしてしまったんですかッ、あなたはッ!!マイを助けたくはないのですかッ!」
「……助けたいよ」
「ならどうしてそのために動かないッ!立って歩け!前を向け!一筋の光があるのなら、それに向かってなぜ足を止めるッッ!!」
心に突き刺さる、言葉の数々。
返す言葉も、何も浮かんではこなかった。
黙り込むレンを突き放し、《
炎獄
(
テスタロッサ
)
》と呼ばれる巫女は射殺すような視線を、再び地に臥せったレンに向ける。
「私達は行きます。あなたはどうするのですか?」
「ど、どうって………」
「どうするのですか?」
「……………………」
黙り込み、沈黙する紅衣の少年の前で、カグラは静かに立ち上がった。
……………ん?
「私
達
(
・
)
?」
はい、とカグラは頷く。
その背後の空間が揺らいで、多量の影が姿を現した。ぶわっ、と突風が顔を叩く。
「おまたせ〜っ、レン君!」
「待たせたな、《
終焉存在
(
マルディアグラ
)
》殿。《
炎獄
(
テスタロッサ
)
》殿」
カグラの背後に、
風妖精
(
シルフ
)
、
猫妖精
(
ケットシー
)
の軍隊が出現していた。
その先頭にいて、カグラの隣に並び立ったのは、それぞれの領主達。
《軍神》アリシャ・ルーと、《戦律》サクヤ。
「ルーねーちゃん、サクヤねーちゃん………」
不敵に微笑んでくる二人の顔を見回しながら、レンは呆然の言葉を紡ぐ。その顔を直視しながら、カグラもまた口を開いた。
「行きましょう」
吐き出されたのは、短い言葉。
だけれども、その言葉は何よりも強くレンの心に響き渡った。
そして同時に差し出されてくる手。
それを、《終焉存在》と呼ばれる少年は────
「…………うん」
しっかりと握った。
ゆっくりと身体を反転させる。
その小さな背に、あまりにも大きなものを背負って。
両眼が見据えるのは、二人の妖精が迷い込んだ天空への階段。
全ての者達が放つ闘志という名の見えざる力が空中にスパークした時、レンは静かに言った。
「突撃」
聖戦の火蓋が落とされた。
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