1年目
春
春B〜私が存在する理由を〜
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いた。違和感の正体もわからないまま……。
―――ピンポーン。
そんな時、部屋に鳴り響く軽快なベルの音が割り込んできた。
「はーい」
―――ピンポーン。
返事したのも聞こえなかったのか?
―――ピンポーンピンポピンポピンポーン。
そんなに何度も鳴らさなくても聞こえている……、のはわかりきっているだろうな、向こうも。
おかげで扉の向こうの相手にはおおよそ見当がついた。
本当にせっかちなやつだ、あいつは。こんな迷惑行為をせっかちで済ませる俺に感謝してもらいたくらいだ。普通なら怒鳴られてるかもしれないぞ。
そんなことを考えていると玄関の外から声が響いてきた。
―――拓海!バンドの練習行くよー!
「おう、愛華。すぐ行く!」
俺はすぐさまその声へと答え返す。
「……ってことで行ってくるからな。今日のコンビニのバイトは夜勤だから帰るのは明日の朝になるわ。晩飯は冷蔵庫に作っておいたから温めて食べろよ。」
「はーい」
「彼女」のいつもの生気のない声が、よりか細く聞こえた気がした。
ちゃんとプリンもらって帰るから。
そう言って「彼女」をなだめ、俺は玄関へと足を向けた。
「悪い、待たせた!」
迎えに来た友人はいつも通り、短く切りそろえられた髪の毛先を跳ねあがらせ、耳にはいくつものシルバーピアスが輝いている。しかしその体つきは華奢であり、背中に抱えたギターケースがより大きく見える。
「おせぇぞ拓海! 今日は午後一番で練習だって言っただろ!」
友人はそう言って、ホットパンツから覗く誰もが目を引くであろう綺麗な長い脚を踏みならして俺のことを催促した。
「そんなの覚えてるっての! それより他の奴らを待たせるのも悪いから早く行こうぜ!」
俺はあわてて靴を履きながらそれに答える。
「……ん? あ、あぁ! ほら、さっさと行くぞ!」
迎えに来た友人はそう言いながら俺を外の世界へ誘うように手を差し伸べる。俺はその手を取って立ち上がると、部屋との境界線を越えた。
その友人は何かが気になったかのように、部屋へと目線を泳がせたように見えたが、きっとそれは俺の気のせいだろう。「彼女」は今、俺にしか見えないはずだからだ。
まだ春だというのに外は肌を焼くような日差しが照りつける。地球温暖化もあながち間違いじゃないな。そんなことを考えながら、足の裏で蹴りつけるように幽霊部屋の扉を閉めた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
……私は何を考えているのだろう。
―――ちょっと飯食ってただよ。
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