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深き者
第三十二章
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第三十二章

「どうする?見るか?」
「地獄はもう何度も見ていますからね」
 本郷は笑ってこう返しはしたがその目は今は笑っていなかった。
「ですから」
「それが答えだな」
「答えるのは楽ですよ。何故ならですね」
 そしてこんなふうにも言うのだった。
「選択肢は一つしかないですから」
「一つしか、か」
「ここまで来たら。いえ、最初からですね」
 言葉を言い換えたのだった。こうしたふうに。
「それは。最初から一つでしたよ」
「この仕事を引き受けたその時にだな」
「そういうことですね。それじゃあ」
「行くか」
 あらためて本郷に対して告げた役だった。
「それではな」
「ええ。じゃあ」
 本郷も頷く。そうして二人は遂に洞窟の中に入ったのであった。
 洞窟の中に入ると役はまずその左手に灯りを出した。これも魔法によるものだった。
「灯りがあればですね」
「敵に察せられる恐れはあるがな」
 その危険は既に頭の中に入れているのだった。
「それでもだ。暗闇の中ではかえって危ない」
「そうですね。何が来るかわかりませんしね」
「一応あれだけ倒したがな」
 話は深き者達についてのことにもなっていた。
「まだいてもおかしくはない」
「ですね。何しろ奴等の根拠地ですから」
「前からどれだけ来てもな」
「後ろにもいますかね」
 ここでこう言った本郷だった。
「ひょっとしたら」
「いや、それはないな」
「ないですか、それは」
「後ろにいるとすれば先程の戦いでの生き残りだが」
 それだと役は言うのであった。
「しかしだ。今はだ」
「全部俺達が倒しましたしね」
「そのうえで鮫の餌食になっている。とても生き残りがいるとは思えない」
 これが結論だった。後ろからの攻撃に対する。
「だからだ。そちらは気にしなくていい」
「そういうことですか」
「前だけでいい」
 役は言い切った。
「今はな。前から来る相手だけを気にしていればいい」
「そういう意味では楽ですかね」
「楽か」
「敵が一方から来るなら楽ですよ」
 本郷はこういう考えであった。
「それならですね」
「そういう考えもあるか」
「少なくとも俺はそうですね」
「そうだな。君らしい言葉だな」
「そしてそれは役さんもですね」
 不敵に笑いながら役に対して告げてみせてきた言葉である。
「違いますか?それで」
「その通りということにしておこう」
 今の役の返答はこうしたものだった。
「今はな」
「じゃあ。行きますか」
「このままな。さて、これで半分程度行ったが」
「ええ」
 距離はある程度わかっていた。既に式神を行かせた時にそこまで測っていたのだ。二人共ただ見ていただけではないのである。
「そうですね。それ位ですね」

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